地平線の向こうの方に、かもめが2匹、優雅に飛んでいた。当時、わたしの周りは、あんな平和の象徴のような鳥とは無関係のようにごたごたしていた。シリウスと最後にここへ来たのは、ちょうど今年の夏のことである。私にとって、その日が最後、シリウスと遊んだ日だった。もっとも、シリウスもそんなに休みがとれるほど時間の余裕があるはずもなく、このような時期にわざわざわたしのために時間を作ってくれたのだと思う。彼は優しいから、一言もそんなこと言わなかった。わたしの足を撫ぜるように、冷たい風が吹き抜けていく。12月のことだった。
シリウスは、優しい人だ。いろんなことを教えてくれるし、わたしより気配りがうまいし、実際、わたしがシリウスを支えていたわけではなく、彼が至らないわたしのフォローをしていてくれていた(シリウスのほうが何百倍も疲れているのに)。毎日が楽しかった。シリウスには意外とかわいいところもあって、わたしが熱をだしたときなんか、この世の終わりみたいな表情で、逃亡中にも関わらず、わたしの家を訪ねてきたものだ。はたから見たらいつもの無表情だったと思うけど、わたしにはその微妙な変化がわかった。だってわたしはずっと、シリウスのことが好きだった。
そして、どうしてわたしがこの冬の海に来て感傷の気分にひたっているかというと、シリウスが居なくなったからだった。失踪というわけでもなく、私の前から居なくなってしまった。シリウスは、わたしが現場にかけつくまでに、もう骸だけが残っていた。彼は死んだ。
後日話を聞くと、どうやら親類にあたる女に死の呪文をかけられ、殺されたらしい。無論、他殺だった。憤りを感じたが、わたしにはどうすることもできない。どのような気持ちで死んだも知らない。しかし、シリウスは確実に、悪いことをしない人だ。これだけは断言できた。だから私は泣いた。シリウスが好きだったから。ただまっすぐに、シリウスが、好きだったから。
詳しい話を聞かせてくれたのはリーマスだった。シリウスと同じく、ホグワーツ時代の先輩にあたる。

「好きすぎて、おかしくなりそうなんです。もう、わたしのこの想いを受けてくれる人は居ないから。わたしみたいな我侭なやつを包んでくれるひとなんて、彼しか居なかった。好きだったんです、本当に、好きだったの」
「あいつのなかでも、あなたの存在は、きっと…大きかったと思うよ」
「シリウスはほんとうに、死んだんですか?」

リーマスは、黙って、こくりとうなずいた。それはたしかに、認めざるを得ない事実が目の前にあるということを示していた。わたしの双眸からは、涙がぼろぼろと止まらずにでていた。シリウスはもう、わたしのとなりに、居てくれない。あったかい手で、あったかい心のシリウスは、戻ってこない、らしい。
まぶたを閉じても、かすかに彼の匂い、肌の感触、息遣いが感じられるようだった。この場から逃げようかとしたが、やはり彼から逃げることはできないんだなあ、と思った。わたしは、いまだに記憶のなかの彼にすがり付いている。ゆっくりと瞳を開ければ、目の前にはかすかに笑うシリウスがいたので、私も同じようににこりと笑った。シリウス、シリウス、シリウス。その幻影は霧のごとく消え失せる。まぼろしはほんの一瞬、夢は刹那だった。
そう、あのときの空の色もちょうどこんなかんじで、真っ青だったとおもう。雲ひとつ無い快晴で、いやみったらしかった。すべてが終わり、一週間が経った今、わたしは毎日この海岸に来ている。彼の手の感触と残像が、まだ脳裏に焼きついている。そして地平線のかなた、鴎が鳴くのだ。くあ、くあ、くあ…と。
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