あたり一面が銀世界となり、今もまさにはらはらと白い雪が、地上に舞い降りてきます。街中はクリスマス色に染められ、もうそんな季節となったのだなと思いださせます。お元気で過ごしてらっしゃいますか。私のほうは変わらず平和です。

あの決戦の日から、随分と月日がたちました。目まぐるしく過ぎたあの時は、一生忘れないことでしょう。忌まわしい記憶と思い、まるで廃人のような生活を送っていた頃もありますが、今となってははるか昔のことのように感じられます。
長いこと手紙を寄越さないですみません。あなたが居なくなったと信じたくなくて、だからすこしあなたに文章を綴るのは気が引けたのです。認めたくなかったのです。もうあなたの骸をこの目にしていたのに、笑ってしまうでしょう?
ですが、私はそれは美しいものを見て、あなたに手紙を書こうと思いたったのです。ホグワーツの生徒だったころ、2年生のころでしょうか、あなたは寮とは反対の方向にある場所に連れて行ってくれました。それはそれはいい景色でした。このどこまでも続く水平線、満天の星空、木々がざわめく音、鳥のさえずり。卒業してから再び訪れたその地は、今でも変わらない姿で存在していた。あなたにどうしてもこの感動を伝えたかったのです。ここでは、磯臭い海の匂いもせず、澄んだ湖の心地よさを感じ、どうしようもない気持ちになります。そちらの景色はどうですか。そちらではもう雪は降っていますか、皆さま元気にしてらっしゃいますか。



そこまで書いて、私は手を止めた。窓からは、澄み切った湖がどこまでも続いているのがわかる。そういえば、あの湖は、いつか彼と一緒に行こう、そういっていた場所だった。あんな感じの、綺麗と称することができる湖に、私もお前と一緒に行きたかった。憧憬はまだ、青い。

私はどこか期待していたのだ。あなたは戻ってくると。死ぬことなどないと、そして素晴らしい悪戯をして、魔法をつかって、みんなを笑わせる。その瞬間、あなたも悪戯っぽい笑みを浮かべるのだ。そう、まだ私は、全部、覚えている。声、笑い方、顔、表情、すべて。
人の記憶とは曖昧なもので、永遠のようで終わりがある。幾らわたしがあなたを愛していたとしても、人としての限界はいつかくるのだ。口癖、背格好、体格、声、顔、名前、君のすべてを。その先には何が待っているのか、私はまだ、怖くて突き進む事ができない。

だがしかしわたしは、未だお前の顔が頭から離れないのだ。あなたのその笑顔が、頭から焼き付いて忘れられない。いつかはあなたの名前すら忘れてしまうのだろうか、顔も、背丈も、笑い方も、あの視線も、口調も、私の記憶の中でさえも抹消されてしまうのだろうか。まるで、なにもなかったかのように、幻影へ沈んでしまうのだろうか。
胸を突き刺すような思いが襲い、私は、「フレッド」と、小さく呟いた。まだ覚えている、あなたのことを。





(さり夫)
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