せんぱいは、俺のすべてを知っているわけじゃない。たぶんおれのほうが、せんぱいのことをよくわかっている。理解は示していないけど、そりゃ人間だし、ぜんぜんせんぱいの考えがピンとこなこともあるから、それは価値観の違いとか賢さとか、ひとつしか違わない、けど365日以上先に生きてるひととの差、だと思うから。おれは、せんぱいに興味がある。
だからせんぱいのことをもっともっとよく知りたいと欲する。
誕生日とか、クラスとか、趣味とか、どんな些細なことでもいいから知りたいとおもうのは、べつに変なことじゃないと思う。身長体重とかの個人情報とかも、ほかのやつだったら要らねえけど、せんぱいのだから、知って、その情報を手に入れて、満たされる感覚がある。そりゃ、そんなひとのプライバシーにかかわるようなこと、調べたことねえけど。
だから、おのれの好奇心や欲するものをひたすらに求めていたから、相対的におれのほうがせんぱいのことを知っているということになるのだとおもう。

いまおもえばただこれは心の隙間をうめたかっただけのむなしい行為だったのかもしれない。
――しってた。
だって去年、同じクラスの望月を好きになったときは、べつにたんじょうびとか調べたことなかったから。たぶん、しゃべってるだけでまんぞくだった。なんとなく、望月も俺のことが好きだっていう自信みたいなのがあったし、今みたいに、言葉じゃ説明できない気持ちにぜんぜん気づいていなかった。
こいつは好き、こいつは嫌い、負けてくやしい、勝ってうれしい。根本ではなにもかわってないけど、あのときは、世界のことを白か黒かでしか判断していなかった気がする。
誰もおしえてくれなかったから。
おれはもともと、人の情報を知って満足するようなタイプじゃない。そんなのは関係なくて、ただいっしょにいる時間が長い異性のことを無条件に好きになっていた。それをいったらせんぱいも当てはまるのかもしれないけど、学年が違う、それだけで、おれには大きな壁があるように感じた。付き合っちゃえば関係ないんだ。ただ、おればっかり好きだから、どうしてもあわててしまう。あせってしまう。
だって、こんなおれでさえ、とくに最近、告白される回数が増えたのだから、まあそれはレギュラー入りを果たして、新人戦でいろいろと活躍したこととかがちょっとは影響しているんだろうけど、先輩はかわいらしい女性であるから、もしかしたらちょいちょい告られてるのかもしれない。おれが授業を受けている真っ最中にも。





「ねえ赤也、赤也のクラスの草尾くんて、かっこいいよねえ」


せんぱいは会うたびにこんな話をしてくる。
やれ誰々がイケメンだ、かっこいいだだのの、ほかの女子となんら変わらない浮ついた話のだいすきなせんぱいは、男のおれにそんなつまんない話題を提供してくる。
だけどせんぱいの話すことならなんだって楽しく感じちゃうおれは、いつもせんぱいと絡むときは幸せである。矛盾。


自分らしくないと思う。

おれはこのひとの目にひかれた。
せんぱいはおれとおんなじ身長で、それなのに顔がものすごく小さくて、そこに嵌め込まれた宝石みたいに、深く澄んだ瞳と視線が交わると、おれはまるで時間が止まってしまったかのような感覚に陥る。笑うとほそめられる双眸は、たまに涙袋にラメがちりばめられていて、きらきらしてかわいい。
あの口紅もひいてないのに真っ赤な色した唇、笑うとのぞく八重歯、そして濡れたくちびるよりもおいしそうな舌先は、せんぱいがうたっているときなんかなまめかしく動いて、妙にどきどきさせられる。
くっきりとした二重で、しかし涼しげな目の瞼から長く伸びるまつ毛は、いつも完璧にカールされていて、長めに引かれたアイラインがいっそう際立っている。
ぽつりとフェイスラインのできものを隠すように、コンシーラが塗られているのを見て、なんだか隙を見つけたようで、やっぱりかわいかった。べつに、せんぱいが完璧っていってるわけじゃないんだけど。おれはきっとこういうふうに、せんぱいに翻弄されていくんだろうなあ。そしてこの先もおそらく、そうなんだろうなあ。
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