風が吹いている。ホームのベンチはひんやりとしていて、体に接しているところがじょじょに冷たくなっていくようだった。ゆびさきは真っ赤にかじかんでいて、吐いた息が白く霧みたいに空気を舞った。
飲み会終わりの馬鹿そうな大学生の笑い声がホームのずっと遠くから聞こえてくる。それをかき消すように、喧騒のなか、急行列車が駅を無視するみたいに通りすぎた。瞬間、たまたまだろう、近くの自動販売機の照明がちかちかと点灯をくりかえした。電車がいってすぐに、遅れて突風が吹きぬける。冷たい風がはだに刺さっていたい。ぎゅっと目をつぶったら、鼻を、近くのファストフード店のポテトの匂いがかすめた。腹が減っているわけではなかったが、俺はなんでもいいから、片っ端から物を口に入れたい気分だった。

俺はなんだかんだいって感傷的な男だ。そして女々しいところがあるらしく、いつまでたっても、このホームみたいに、置いて行かれる気がしてならないのだ。その対象はひとりきり、あのせんぱいに対してだけは、ただの好意だけじゃなくて、羨望と、えたいのしれない畏怖と、そういったごちゃまぜになった感情を抱かざるをえなくて、つまりそれらの気持ちによって、俺はこうやって塞ぎこんでいる。

せんぱいが泣いているときおれはいつもどうしたらいいかわからない。
行事とか友達のこととか、いろんな人間関係で悩んでるとき、小説読んで感動してるとき、ひどいことを言われて落ち込んでいるとき、せんぱいは感極まったときには必ず泣くから、いい加減なれてもいいようなものなのだろうけど、繊細なせんぱいを、おれの下手な励ましの言葉で傷つけたくなくて、結局となりでだんまりを貫くしかない。

けど今は状況がちがう。


おれだって泣きたいんだよ、せんぱい。


おれだって悲しいんだよ、せんぱい。
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