まったく関係ないとはわかっていても悲しいものです。そう、確かに私は同じクラスの女の子のような自己主張はできない、かといって他の子のように大和撫子なわけでもないので、精一杯積極的にしていても、きっと先生の眼中にすら入っていないのでしょう。なんて哀れ。なんて悲しいの。私はただ先生が好きなだけなのに。でも、もし先生が私に気付いていたとしても、先生は私に振り向いてくれない。生徒と教師という禁断の関係、ああ、まるでシェークスピアのごとく純文学的な恋、なんと儚いことなのだろう。せんせい、私はこんなにもあなたのことが好きなのに。じわり涙が目に浮かぶ。なんでこんなに悩まなきゃいけない。ぎゅ、胸が痛んだ。心臓が痛い。この痛みさえなければ、同じクラスのけばけばしい女の子ぐらい活発に動けたかもしれない。もしも病弱じゃなければ、私がもっとちゃんとした健康体であったなら、こんなに堂々巡りなこと考えなくてもいいかもしれないのに!生と死についてなんて、考えたくもない。
先生の話が聞きたくない。そう。私は、2時間目から昼休みまでの授業を無断欠課した。いわゆる、さぼりだ。だってこんな醜い顔、声、先生にとてもじゃないけど見せられない。風が吹くと、その風にのって、涙がぽたり、ゆられた。昇降口の前に腰を下ろして、顔を膝にうずめると、制服の袖に涙の粒が染みた。寒空の中、わたしはひたすらに泣いた。4時間目が終了となるチャイムを聞いても、教室に戻る気にはなれず、そのまま動かないことにした。


「…………名字?」
「!」


先生の声が背後から聞こえる。布の擦れる音と、足音。先生に違いなかった。


「1時間目は居ったんに、2時間目から居らへんかった?」
「…は、い」
「調子悪いんやったら、休まなアカンで」


こくり、無言でうなずくと、先生は私の隣に腰掛けた。先生の匂いがした。タバコの匂いだ。いい匂いだった。愛しい匂いだった。好きだ。あなたが、好きだ。そう思うと涙が止まらなくて止まらなくて、口を噛み締めて、泣いた。胸がいたい。


「、名字?泣いとるん?」


先生がこちらを覗きこんでくる。先生は心配そうに眉を寄せていた。優しい。あなたは優しい。先生に向き直り、顔をしばし見つめると、ぐずっ、と鼻が鳴った。せんせい、そうもう一回言うと、私は先生のうでを体に寄せた。ごつごつして、中学生のどの子よりもやっぱり大人な先生の手のひらを、自分のそれと重ね合わせる。温もりが感じられた。先生の手が一瞬ふるえたので、気分を害してしまったか、と目線だけ動かすと、先生は目を円くしていた。でも、抵抗はしないようすだったので、私はそのまま視線を落とした。瞬間、世界が暗転。顔とトルソーに、暖かさが感じられる。先生の香りが鼻をかすめると、私は先生にきつく抱き締められていた。人の温もりが、私を安心させた。先生は私のことを一生徒としか見ていないかもしれないけれど、それでも今の私には、十分だ。それだけで、私はこの短い人生を、謳歌できる。喉の奥で血の臭いがしても、心臓がきりきりと痛んでも、私は先生と触れ合えた、その事実が、私の心を安心させる。このまま眠りについてしまえばいいのに。あなたのそばで、私は、死にたいのだ。

孤独心中ごっこ
(好きです、せんせい)
090907 さりお
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