実践授業編(前編)

木々の隙間からのぞく青空を見上げ、ぐいっと伸びをしてみせる。ふう、と一息ついてから手を叩き、生徒たちの注意を引くと同時に全員集合〜と軽い口調で生徒達を集めた。そのままいつも通り、これもまた軽い流れで点呼を取る。

「全員いるな〜。それじゃあ今日の授業を始めるぞ。先週までは体力作りのための授業だったが今日からは実践授業だ。怪我をしないように十分注意すること。いいな?」

分かったら手をあげろ〜なんて少しだけ子供扱いするように問うと一部の生徒が少しだけ顔をしかめた。それを見なかったことにしてさっそく授業の説明を始める。今日は天気もよく気温もちょうどいいためか課外授業がやりやすくて助かる。少しずつ暖かくなってきて体を動かせば汗もかくようになってきた。そろそろ春も終わりかな、とくだらないことを考えつつ生徒に用意してきたプリントを配る。それと同時に自分の能力で猿を模った仮想の魔物を作って見せた。

「お前らは今日が初めての実践授業だからな。まずはこいつでお前らの実力を測る。ルールは簡単、ここにいる仮想の魔物を事前に森の中にはなしておいた。今日はこいつの討伐、および捕獲を各チームで行ってもらう。」
「思ってたより本格的だね…。」

1人の生徒がそう呟いた。チラリとその生徒に目を配る。チームKのココル=ルーアだったか。あいつは現実主義者だから今回の授業に疑問があるのだろう。確かに初めての実践授業にしてはいささか本格的すぎる内容かもしれない。だが、俺にも考えあっての授業だ。説明は最後まで聞いてもらおう。

「今日の授業は自分達の実力を知ってもらうのと、チームで協力するのが狙いだ。それから、お前らも知ってると思うがゴールデンウィーク明けに行われる実践演習の事前練習も兼ねている。…とはいえ初めてのことだからな、不安もあるだろうが安心しろ。今日は琉生先生とリラ先生に応援を頼んだ。ちゃんとお前らの行動はこっちでも監視する。」
「授業やってるから知ってるだろうけど一応!逸見琉生。英語を教えてるよ、よろしくな!」
「リラ・デュールよ。普段は理科を担当してるわ。…ほんとは男の頼みなんか聞きたくないけど…1年目は可愛子ちゃんが多いから来てあげたわよ!」
「てめえその口今すぐ凍らすぞ。」
「あらやだ怖い。」
「そーゆーのいいから早く実践授業やろうぜ、体なまっちまう…。」

チームストロングの花道薫が俺たちの会話を何気なく区切る。ごほん、と咳払いをしすまん続けるぞ、と説明を再開。大方の流れはさっき言った通り仮想の魔物の討伐および捕獲になる。ただし討伐、と言ってもこいつは好戦的な魔物ではない。まだ1年目、しかも実践未経験の奴らに攻撃なんてさせたらいきなり怪我人がでるだろうからな。また、討伐だけでなく捕獲も可としているのはまだ能力を使いこなせていない者や初めてで自分の戦い方を知らない者もいるだろうという配慮のつもりだ。

「好戦的ではないかわりにこいつらはやたらすばしっこく作ってある。普通に討伐、捕獲しようとしても簡単にはいかねえぞ。」
「つまり各チーム工夫するようにってことな。それから、注意事項もちゃんと読んでおけよ!」
「ちゃんと守れない子はあとでペナルティよ。香折先生のペナルティはきっついぞ〜。」

琉生先生に続きリラがそう言って少しだけ生徒を脅すように笑ったので俺も意地悪をしてやろうという気になり楽しみだなと笑って見せた。すると生徒達がうわあと声を漏らす。俺はわりと容赦しないタイプだからな。そこらへんはきっちりさせてもらうぞ。

「まあ一応注意事項も確認しておくぞ。」

まず1つ目、行動範囲は現在いる場所を拠点に半径5km以内。2つ目、同じ獲物を狙うのは可とするが相手に怪我をさせてはいけない。3つ目、危険区域には近づかない。…とまあ他にもいくつかあるのだが残りは各自で確認してもらうことにしよう。思っていたより説明が長引いてしまったため急ぎ足の説明になってしまったのは反省点だな。

「制限時間は2時間、終了の合図はリラ先生が出すからな。終了の合図に気づいたらすぐここに集合すること。これで説明は終わるが質問はあるか?それから小学生組、ちゃんと理解できたか〜?」

はーいと元気な返事を聞き、ならよしと笑って見せる。特に質問もないようなのでポケットにいれておいた時計を取り出し時間を確認した。

「よし、それじゃあ10分後に始めるぞ。各チーム準備するように。」

生徒達を解散させそれぞれ準備体操などをして備える様子を横目にリラと琉生先生に声をかける。

「今日はよろしくお願いします。」
「はいはい、よろしく。」
「やだ〜香折ちゃんったら律儀。変な感じ〜。」
「その呼び方はやめろと何度言えばいいんだ。…お前はともかく琉生先生は一応年上だからな。」
「一応ってすごく気になるんだが。」
「それより、これからのことですけど。」
「お前そーゆーとこあるよな。」

琉生先生の文句を軽く受け流しこれからのことについて説明する。今年は小学生チームが多いからな。いつも以上に細心の注意を払っておきたいのが本音だ。いつもなら1年目の授業にはリラだけで十分なのだがさすがにあれだけ小学生がいると2人では対処しきれないこともあるだろう。そう思ったが故の助っ人だ。

「今年は小学生チームが多いので琉生先生はできればそこを中心に監視していただきたい。俺はいつも通り各チームの様子を見て回ります。何かあればリラの能力で感知してすぐ知らせてもらえば対応するので、あとは臨機応変に…。」
「なるほど、俺は小学生の子守をすればいいんだな?」
「まあ…そうなりますね。とはいえ3チームいるので難しいかと思います。俺も追々様子を見に行くので無理にとは言いません。それから、チームKには孝介がいますがそちらは他と違い小学生だけのチームではないので注意を払う必要はありません。」
「まあ私も小学生チームには気をつかっておくから。」
「ああ、よろしく頼む。…さて、そろそろ始めましょう。」

2人が頷くのを確認して時計に目を向ける。ちょうど10分が経とうとしていたため、授業を始めた時と同じように手を叩き生徒の注意を引いた。

「10分経った。始めるぞ。制限時間は2時間、全員怪我だけはしないように。それじゃあ、はじめ!」

はじめの合図とともに自前の笛を鳴らし生徒たちがそれぞれ散るのを見送る。さて、ここからが本格的に俺の仕事だ。
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