プロローグ01

コトンと置かれたティーカップに一片の桜が舞い落ちた。特に拾い上げることもなくおや、と声を漏らし空を見上げる。風が靡き桜が舞った。

「春って感じだね。」
「そうですね…。」
「俺は花より団子だなー。」

リョクと花鈴がほおと感嘆の声を上げた真横で伊折が机にだらしなく突っ伏した。台無し、と花鈴が零し頬杖をつけばふふ、とリョクが笑った。コーヒー、と突っ伏したままカップをあげる伊折に呆れながら新しいコーヒーを注ぐ。微かなコーヒーの香りと春の陽気が眠気を誘った。これはいかん、と顔を上げカップに口をつけるとはあ、と息を吐いた。

「…明日からですね。」
「おう…。」
「今日でこのチームも解散、か。」

妙な静寂が3人を包み込んだ。思い出に浸るかのようにそれぞれが思いを巡らせる。突然、ぽつんと伊折が言葉を紡いだ。

「まあ、初めは変な奴等とチームメイトになったなと思ったけど…案外楽しかったぜ。」
「一番変人だったのは君ですよ?君には手を焼きました。」
「そうだねえ、伊折は常に1人で突っ走る奴だったから困ったよねえ。」
「おい、俺が悪いみたいに言うなよ。」

実際そうだろう?と言ってにやりと笑った。ぐっ…と言葉を飲み込みふてくされてようにはいはいと頷けばコツンと額を叩かれる。

「まあ、そこがあんたのいいとこでもあるさ。それに、なんでもそつなくこなすお前は天才だよ。」
「そうですね…助けられたこともたくさんありましたよ。」
「おだてても何もでねーぞ。」
「褒めてるんですよ。」
「上には上がいるもんだ。」

何もできなかったしな、と付け足した伊折に2人は息をのんだ。半年前の記憶が、フラッシュバックのように浮かぶ。再び静寂に包まれたが、花鈴の溜息でそれは途切れた。

「いつまでも引きずっていると、怒られるよ。」
「そうですね…それに、なんのために解散するのか忘れたわけではないでしょう?」
「ああ…もちろんだ。今度は俺達の番だぜ。」

3人が悩んで道に迷った時、必ず手を差し伸べてくれた人がいた。3人にとって家族のような存在だったその人が、彼らに残したモノを手探りで拾い集めた。あの日から半年。たくさん悩み、考えた3人は1つの道を選んだ。チームの解散という道を。

「まあ、そのうち機会があればまたこうして集まりたいね。」
「いいですね。たまにはお茶でもしましょうか。」
「まあ、そのうちな。」

顔を見合わせ笑い合う3人を、1人の少女が陰から覗いていた。少し大きめのカーディガンで手をすっぽりと隠している少女は口に手を当てくすくす笑った。その隣に立っていた青年が何がおかしいのか、と問うと、少女はあのね、と応える。

「皆が元気になるとノンちゃんも元気になるの。」
「…そうか。」

青年は開いていた扇子をぱたんと閉じる。

「少年少女に幸あることを、願おうか。」

春は始まりの季節。たくさんの人が今、スタートラインに立った―。
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