蜜柑編-01
「お姉さんは頑張っているじゃないか」
「はあ…そうっすね…。」
教師の口からこぼれた言葉に適当に返事をすると、気に入らなかったらしくわざとらしいため息をつかれた。双子だというのにこうも違うのか、と文句を垂れる。悪かったな、と心の中で悪態をつき、説教を聞いているフリでいつも通りごまかした。
「失礼しました。」
長い説教を聞き終えた俺は職員室をあとにし残り少ない昼休みを有意義に過ごすべく図書室へと向かった。お昼ご飯は食べていなかったが食欲がなく、お弁当を作ってくれた母に申し訳ないと感じつつも歩き続ける。程なくして到着した図書室にさっともぐりこみ、一番奥の席に座り込むと深く息を吐き出し、天井を見上げた。
「…うぜえ」
姉との差なんて自分自身が一番分かっている。だが、他人にそれを指摘されるのが心地いいものであるわけがない。時間差で少しだけイライラしてきた俺はなんとか感情を抑え込もうと今度は机に突っ伏した。
姉である神無月林檎は勉強ができ、運動もそれなりに得意で、人徳も得られるような、優秀な存在だった。それに対し弟である俺、神無月蜜柑は勉強も運動も平均的、人徳はそこそこ、という中途半端な存在。周りから比べられるのは最早当たり前のことで、当然のように姉は褒められて育ち、俺はお姉さんのようになりなさいと諭されて育った。それはこの討伐団養成学院に入学しても同じで、それどころか悪化したように感じる。
チームメイトであるシェルツの不運により授業に遅刻することが多くない俺はその度に姉と比べられるし、しまいには鬱憤の原因である姉にまで怒られる。俺だって遅刻したくて遅刻しているわけではない。あれもこれも全部シェルツの不運が悪いのだ。とはいえ、彼の不運がどうにもならないのは承知のうえだし、むしろ可哀想にすら感じる。そんな彼と同じチームになってしまった俺の運も悪かったのだと最近は諦めるように努めている。
なんて、今更なことをぐるぐると思考しもう一度深く息を吐き出した。それと同時に、ふと気配を感じそっと顔をあげてみた。すると、見慣れた赤い髪が目に映り顔をあげたことをこれでもかといくらいに後悔した。
「蜜柑!こんなとこにいたのね?あんたお昼ご飯食べてないんでしょ?」
誰に聞いたのか、今一番会いたくなかった人物である姉が仁王立ちで俺のお弁当箱をぶらぶらと揺らして見せた。何度目か分からないため息をつき、力なく食欲がないと応えると、馬鹿言ってんじゃないわよとおでこにデコピンをお見舞いされる。
「あんた午後は対抗戦があるんでしょ?ちゃんと食べないと負けちゃうわよ?」
「……いいよ、今日はそれでいい。」
「…あんったねえ!チームメイトにどれだけ迷惑かかると思ってんのよ!」
「うるせえな、食欲ないもんは仕方ねえだろ。無理に食って吐いたりしたらどうすんだよ。」
「あんたがそんな貧弱なわけないでしょ!つべこべ言わずに食べなさい!」
そう言ってドンッと机に弁当を置く。それをきっかけに、俺の何かがぷつんと切れるのが分かった。ガタッと立ち上がり机を思いっきり叩く。
「…うざい」
「はあ?」
「うざいっつってんだよ!俺には俺の考えがあるしお前に指図されるつもりもない!お前ほんとなんなの?姉だからって一々うるせえんだよ!たかが数分早く生まれただけだろ!ほっとけよ!」
静かだった図書室に俺の怒鳴り声が響く。近くにいた生徒が静かに、と言ったがそんなものはおかいましに言葉を紡いだ。
「どうせ俺は中途半端だよ!お前と違っていくら努力しても成績は上がらないし教師には努力が足りないって怒られる!そのうえチームメイトに平気で迷惑かけようとするような奴だよ!お前も可哀想だよな!こんな弟もってさ!」
「いい加減にして!!」
姉の怒鳴り声にはっと我に返る。息を切らしながら顔をあげると、そこには泣いている姉がいた。姉の涙には一瞬驚いたが、どうせ図星だったんだろ、と吐き捨てた。
「馬鹿、もう知らない。」
そう言って姉が図書室を出ていくと同時にすとんと力が抜け、俺は再び椅子に深く腰かけた。それと同時に午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いたが、俺はそのまま机に突っ伏しサボリを決め込んだ。
「………俺だって、頑張ってんだよ。」
これ以上どう頑張ったらいいんだ。誰か教えてくれ。
「はあ…そうっすね…。」
教師の口からこぼれた言葉に適当に返事をすると、気に入らなかったらしくわざとらしいため息をつかれた。双子だというのにこうも違うのか、と文句を垂れる。悪かったな、と心の中で悪態をつき、説教を聞いているフリでいつも通りごまかした。
「失礼しました。」
長い説教を聞き終えた俺は職員室をあとにし残り少ない昼休みを有意義に過ごすべく図書室へと向かった。お昼ご飯は食べていなかったが食欲がなく、お弁当を作ってくれた母に申し訳ないと感じつつも歩き続ける。程なくして到着した図書室にさっともぐりこみ、一番奥の席に座り込むと深く息を吐き出し、天井を見上げた。
「…うぜえ」
姉との差なんて自分自身が一番分かっている。だが、他人にそれを指摘されるのが心地いいものであるわけがない。時間差で少しだけイライラしてきた俺はなんとか感情を抑え込もうと今度は机に突っ伏した。
姉である神無月林檎は勉強ができ、運動もそれなりに得意で、人徳も得られるような、優秀な存在だった。それに対し弟である俺、神無月蜜柑は勉強も運動も平均的、人徳はそこそこ、という中途半端な存在。周りから比べられるのは最早当たり前のことで、当然のように姉は褒められて育ち、俺はお姉さんのようになりなさいと諭されて育った。それはこの討伐団養成学院に入学しても同じで、それどころか悪化したように感じる。
チームメイトであるシェルツの不運により授業に遅刻することが多くない俺はその度に姉と比べられるし、しまいには鬱憤の原因である姉にまで怒られる。俺だって遅刻したくて遅刻しているわけではない。あれもこれも全部シェルツの不運が悪いのだ。とはいえ、彼の不運がどうにもならないのは承知のうえだし、むしろ可哀想にすら感じる。そんな彼と同じチームになってしまった俺の運も悪かったのだと最近は諦めるように努めている。
なんて、今更なことをぐるぐると思考しもう一度深く息を吐き出した。それと同時に、ふと気配を感じそっと顔をあげてみた。すると、見慣れた赤い髪が目に映り顔をあげたことをこれでもかといくらいに後悔した。
「蜜柑!こんなとこにいたのね?あんたお昼ご飯食べてないんでしょ?」
誰に聞いたのか、今一番会いたくなかった人物である姉が仁王立ちで俺のお弁当箱をぶらぶらと揺らして見せた。何度目か分からないため息をつき、力なく食欲がないと応えると、馬鹿言ってんじゃないわよとおでこにデコピンをお見舞いされる。
「あんた午後は対抗戦があるんでしょ?ちゃんと食べないと負けちゃうわよ?」
「……いいよ、今日はそれでいい。」
「…あんったねえ!チームメイトにどれだけ迷惑かかると思ってんのよ!」
「うるせえな、食欲ないもんは仕方ねえだろ。無理に食って吐いたりしたらどうすんだよ。」
「あんたがそんな貧弱なわけないでしょ!つべこべ言わずに食べなさい!」
そう言ってドンッと机に弁当を置く。それをきっかけに、俺の何かがぷつんと切れるのが分かった。ガタッと立ち上がり机を思いっきり叩く。
「…うざい」
「はあ?」
「うざいっつってんだよ!俺には俺の考えがあるしお前に指図されるつもりもない!お前ほんとなんなの?姉だからって一々うるせえんだよ!たかが数分早く生まれただけだろ!ほっとけよ!」
静かだった図書室に俺の怒鳴り声が響く。近くにいた生徒が静かに、と言ったがそんなものはおかいましに言葉を紡いだ。
「どうせ俺は中途半端だよ!お前と違っていくら努力しても成績は上がらないし教師には努力が足りないって怒られる!そのうえチームメイトに平気で迷惑かけようとするような奴だよ!お前も可哀想だよな!こんな弟もってさ!」
「いい加減にして!!」
姉の怒鳴り声にはっと我に返る。息を切らしながら顔をあげると、そこには泣いている姉がいた。姉の涙には一瞬驚いたが、どうせ図星だったんだろ、と吐き捨てた。
「馬鹿、もう知らない。」
そう言って姉が図書室を出ていくと同時にすとんと力が抜け、俺は再び椅子に深く腰かけた。それと同時に午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いたが、俺はそのまま机に突っ伏しサボリを決め込んだ。
「………俺だって、頑張ってんだよ。」
これ以上どう頑張ったらいいんだ。誰か教えてくれ。