プロローグ??

椎橋一族は大きな4つの建物が東西南北に位置し2m程の塀がその周りをぐるりと囲む広い屋敷で本家と分家が入り混じり暮らしている。我が一族のご先祖様は陰陽師であったという。時には妖を封印し鬼を退治した。また、邪気を払い疫病を治したとさえ言われている。そんなご先祖様を本家の者達は敬い拝むことを日課としていた。そんな本家の者達が目の敵にしている人物がいた。それが椎橋文世であり、私である。

「分家の者など放っておけばよいものを…。困ったものだ。」

私は通い慣れた学院への道をのんびりと歩きながらため息を漏らした。何故、分家の出である私が目の敵にされているかというと、原因は我が能力にあった。
遠い昔、この地よりもっと東にある奥深き森に九尾の妖が住み着いていたという。その九尾の妖は森を出て近くの村を襲い田畑を荒らし人々を困らせていた。そんな九尾に困り果てた村の人々は遠い道のりを何日もかけて我が一族に助けを求めた。その時、名乗りを挙げたのが一族の歴史に華々しく名を残した男であった。その男は自身の陰陽師の力で炎を操り九尾と対峙したという。その炎の能力こそ、私の持つ鬼火の能力であった。

「鬼火を操り見事九尾を倒した男はその後の椎橋一族をまとめあげ立派な一族に成長させたのであります!!…なーんて、遠い遠い昔の話だというのに。それどころか本当かどうかも怪しいではないか。所詮、伝説だ。」

阿呆な奴らだと思わないか?と道中出会った猫に語りかけた。首を傾げてにゃあと鳴く猫の頭を撫で苦笑を漏らす。本家の者達は私の能力を好ましく思っていないのだろう。私がそのご先祖様の血を色濃く受け継いだ次期当主になるべき人物であると言い出した輩がいたからだ。全く、身勝手な話である。そんな面倒な役目、本家が好きにすれば良いではないか。私は毎日を好きなように楽しみながら生きられればそれでいいのだ。むしろ、そんな日常を縛り付けられてはたまったものではない。

「まあ、そんな奴らのことは放っておけばいいか。さーて今日も面白いことを探そうではないか。」
「あー!文ちゃんみっけー!」
「おや。」

綺麗な金髪を揺らして手を振る少女が数メートル先に見えた。チームメイトであるノンである。1人で登校とは珍しいものだ、と思いつつ私は軽く手を挙げ会釈した。

「おはよう。今日はお兄さんと一緒じゃないんだな。」
「ノンちゃんはねー今日は早起きしたんだよー。それなのにお兄ちゃん寄るところがあるから先に行けって言うのー。」

むうと頬を膨らませた彼女はご機嫌が斜めのようでプンプンと怒って見せた。そんな彼女の頭を撫でてやる。すると彼女は少しだけ機嫌をなおしたらしくへへっと笑って見せた。と、そこへもう1人、見知った人物が近づいてくるのに気が付いた。

「お2人とも、おはようございます。早く行かないと遅刻しますわよ?」
「やあ華菱。おはよう。」
「華ちゃんおっはよー!」

ぎゅーっと華菱に抱き付いたノンの様子を見て既に機嫌は良くなったようだ、と私は肩をすぼめた。まったく、ころころと表情を変える子だ。見ていてこっちが飽きないよ。ふと、私はいつもの光景に足りないものを思い出しそういえば、と口を開いた。

「穂希はどうしたんだい?」
「えーもう学校に行ったんじゃなーい?」
「あら、あのめんどくさがり屋が?想像できません。」
「…今日の迎え担当は?」

外園穂希という男は物事にとにかく興味がない。彼のやる気を起こすものは喧嘩や闘争といった争い事であった。それ以外のことには一切やる気を見せず自分から動こうとはしない彼は、学校に行くことですらめんどくさがってばかりいた。そんな彼が何故学院に入学したのかは、私達にも分からない。と、いうより触れてはならぬ、聞いてはならぬ、という暗黙の了解があった。何故ならそれが、彼自身の願いであるからだ。私達に話すべきでないと彼が判断したのなら、好きにさせてやろう。それが私達の決断であった。…とはいえ、学院に来てもらわないと困るのは私達である。チームでの行動を義務付けられている以上、学院には来てもらいたい。そのために私たちがとった策は毎日交代で彼を迎えに行くことであった。

「…私じゃないわ。」
「私でもないぞ。」
「…あ。」

華菱と私はチラリとノンを見やった。しまった、というように顔を引きつらせている彼女に、深い溜息を吐いた。お前か…と額を手で押さえる。普段はお兄さんが気を使って一緒に迎えに行ってくれていたのだ、と私は思い出した。そのお兄さんが今日は私用でいない。想定できたであろう事態に私は失態をおかした、と自分の不甲斐なさを呪った。

「…ノン、お兄さんにばかり頼っていてはこれから先いつか躓くぞ。」
「…ごめんなさい。」

しょんぼりと彼女が肩を落とす。ふう、と苦笑し先ほどと同じように頭を撫でた。

「仕方がない。みんなで迎えに行こう。」
「元気をだしてね。今ならまだ間に合いますよ。」
「…うん!」

かくして、私たちはもう1人のチームメイトを迎えに行くため、少しだけ道を引き返すこととなった。さあ、行こうか、と踵を返したその途端。急に周りの空気が異様に熱を帯び始めた。はっとなり慌てて走り出す。何の気まぐれか、今日は家で大人しく待っていてはくれなかったらしい。

「穂希!!待て!」
「…あ?」

熱を帯びる道を引き返し、開けた場所にたどり着いた。そこで目にしたのはチーメイトである穂希と、その向かいに立ち並ぶ数人の男達であった。明らかにいい空気ではない。穂希は私の顔を見た途端に嫌そうな顔をした。遅れて到着したノンと華菱に私は下がるように声をかける。コンクリートの地面がコポコポと音を立てた。少量の溶岩が地面を溶かしている。

「…穂希ここは街のど真ん中だ。言っている意味が分からぬお前ではなかろう。」
「……。」

私が扇子を構えると、穂希の向かいに立つ男が邪魔をするな、と言った。それはこっちの台詞だ、と内心悪態をつきながらにこりと笑顔を浮かべる。

「すまない。ここはどうかお引き取り願えないか?」

なるべく、相手を刺激しないよう細心の注意を払った。が、男達は聞き耳を立てる気はないらしい。うるせえ!と大声で叫び穂希に向かって拳を振り上げた。その瞬間熱が上がった。穂希がにやりと口角を上げたのが分かる。ええい、いい加減にしろ!

さっと鬼火を浮かべ、はっとなりすぐに消した。穂希の能力の暴走を止めるのに鬼火など意味がない。何が陰陽師の末裔だ。ここぞというときに役にたたねば意味がないではないか。本家の者共め、馬鹿を見ろ。私は青の能力へ素早くシフトチェンジし小さな津波を起こす。うるさい男達を巻き添えに穂希の体を波が攫った。男達の驚いた悲鳴のような声があがった。

「…ちっ。」

波がさっと引き、腰を抜かした男達がその場に座り込む。こんな小さな津波でその程度か。そんな覚悟で穂希に喧嘩を売るなど馬鹿のすることだ。私は再びお引き取り願おうか、と声をかけた。ひいっとその場を去っていく男達に穂希が舌打ちする。ぱたん、と扇子を閉じて軽く彼の頭を叩いた。

「穂希…私達を巻き添えに退学でもする気か。」
「…それもいいな。」
「冗談じゃない!!」
「はっ。心にもないことを。」
「…。」

にやりと笑う穂希が歩き出す。足は学院の方へと向かっている。どうやら学校へは行ってくれるようだ。私は深く溜息をついた。ふと、今さっき言われた言葉が頭で復唱された。私は自嘲気味に笑みをこぼした。

「…言ってくれるな。」

穂希の行動に肝を冷やしながら、それを楽しみとしている自分がいる。そんなことはとっくに気が付いていた。彼と一緒にいると常に危険がまとわりつく。だが、そんなスリルを楽しみともしていたのだ。全てお見通しだ、というように穂希が振り向きにやりと笑う。

「…危ない橋を渡るつもりはないんだがなあ。」
「文ちゃーん!早くしないと遅刻しちゃうよー!」
「行きましょう。」
「ああ、今行くよ。」

私の日常は、今日も目まぐるしく廻っている。
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