3回戦:伊折VSリョク

「あーあ…劉院大丈夫かー?」

試合を終えた劉院に伊折が駆け寄る。林檎の時と同様に肩に手を回し立つのを支えた。しかし、劉院からは返事がない。相当へこんでいるらしい。ふうとため息をつき、彼の額にデコピンを喰らわせた。

「いってえ!!何すんだよ!」
「負けは恥じゃねえ。勉強になっただろ?」

ニヤリと笑ってみせる伊折から不服そうに目を逸らす。ふと、姫に視線を移した。姫はびくりと肩を揺らす。

「おい。」
「は、はい…!」
「最後のは助かった…サンキュ…。」
「…!う、うん!!」
「やだ、あの劉院の口からお礼の言葉!?信じられないわ!誰か録音!」
「林檎てめえ覚えとけ…!」

わいわいと騒ぐチームオベイは本当に賑やかだ。なんだかんだで仲は良いのだろう。と言っても最近になってやっと、といったところだが。
ふと、そこで伊折が林檎に手招をした。何よ、と近づくと突然劉院を押し付けられ倒れそうになる。が、なんとか堪えた。

「ちょ、ちょっと!重い!」
「仕方ねーだろ!力入らねえんだよ!」
「劉院のこと頼んだ!なんかお待ちみたいだし?とっとと片付けてくるぜ!」

まだ休憩時間終わってないじゃない…と林檎が文句ありげにフィールドを見る。そこではニコニコといつもの笑顔を浮かべたリョクが既にスタンばっていた。

「珍しくやる気満々じゃねーか。」
「そうですね。久しぶりに楽しい、と感じていますよ。」

2人の間で火花が散っているのがよく分かる。それを見ていたシェルツは花鈴にそっと仲悪いんですか?と耳打ちをした。

「そんなことはないさ。でも昔から何かと張り合ってはいたよ。」

花鈴が楽しそうに笑う。シェルツにはその笑顔が怖かった。そんなシェルツを横目に双葉は能天気に頬杖をついた。と、そこに暇を持て余したのであろうリラがやってきた。

「お、やってるやってる。今何回戦目?」
「ちょうど3回戦が始まるところです。」
「なーんだ。伊折とリョクかー。女の子の試合どうだった?」

相変わらず女にしか興味のない人だ、と蜜柑が呆れたように零した。
それとほぼ同時に伊折が位置につく。お手柔らかに、とリョクが笑った。

審判の合図が響く。

「お手並み拝見。」
「先手必勝!」

伊折がすぐに飛び上がり持っていた鎌を振り下ろす。刃となった風がリョクに向かって一直線に振り注いだ。
ドォンという大きな音と衝撃で強い風がフィールドを覆い尽くした。

「リョクさん…!」

リンネが慌てて名を呼ぶ。土埃のせいで彼の姿は未だに見えない。と、突然土埃の中から水の球が飛んでくる。それを軽々と交わし着地してから完全に土埃がはれるのを待った。

「相変わらず野蛮な戦い方ですね。」
「余計なお世話だ。」

土埃がはれ、姿を現した彼にリンネがホッと息をつく。トキが彼女の肩を叩いた。

「リョクなら大丈夫。」

セナが声をかけるとリンネも頷き再びフィールドへと意識を集中した。リョクはというと、右足でトントンと地面を叩いていた。いや、正しくはそこに落とされた種を叩いたのだ。
すると種がみるみる芽をだし成長していく。そして伊折めがけてツタが伸びていった。

「おっと。」
「今度は僕の番ですね。」

リョクが顔の前で人差指をたてる。指先を中心にどこからともなく水が渦を巻くように球体を作り出した。球体になったあとも回転は止まらない。

「何…あれ?」
「水圧を作ってるんだよ。」
「先生いつの間に…。」

林檎が首をかしげるといつの間に隣にやってきたのか、リラが「水圧を作って衝撃を増幅させてる。それだけの簡単なことだよ。」と笑った。

「うげえ。お前さーそれ知らねーだろ。当たると結構痛いんだぜ?」
「当たり前です。衝撃がなければ意味がないでしょう?」

複数の球体を作り終えたリョクがそれを操り伊折に向かって飛ばした。ひょいひょいとそれを避け一気に間合いを詰める。が、いつの間に落としたのか。先ほどとは違う植物の幹がそれを阻止した。

「邪魔くせえ。」

幹に鎌を振り下ろす。根元から削ぎ落としついでに風を使ってそれを投げつけた。と、リョクがその場から飛び出した。「げっ」と伊折が声を漏らす。投げつけられた幹を台にもっと高く飛ぶ。そのまま伊折を飛び越え振り向きすぐに球体を先ほどよりたくさん投げつける。1つ目2つ目を鎌で交わし3つ目の軌道を風でそらす。4つ目と5つ目は自分で避けた。6つ目が肩をかする。そして、7つ目が腹部に直撃しフィールドの柵に体ごと吹っ飛ばれた。

「ひっ…!」

姫が驚き劉院の後ろに隠れた。そんな彼女の頭をリラが撫でる。
伊折はというとゲホッと咳き込み腹部を押さえながら立ち上がった。

「こんにゃろっ…。」
「伊折、もしかして弱くなりましたか?」
「ははっ。お前俺のこと舐めすぎ…。」

ぐいっと口元を拭ったとほぼ同時。フィールド内を強い風が覆い尽くす。2人の髪が激しく揺れる。リョクはそれでもいつもの笑顔を浮かべていた。

「そろそろ終わりにしようぜ?」
「どうぞ、お好きに。」

リョクの周りの植物が蠢き出す。伊折の周りに風が集まる。リラがあーあと溜息をこぼした。

「派手にやりすぎ…。」

伊折が飛ぶと同時にリョクの植物が伊折めがけて伸びる。再びドォンという衝撃と共に土埃が2人の姿をかき消した。

「伊折…!」
「リョクさん…!」

誰もがことの行方を見守った。おそらく今のが最後の交戦だろう。勝ったのは伊折か、それともリョクか。少しずつはれていく土埃に息を飲んだ。

「…。」
「僕の勝ち、ですね。」

土埃が完全にはれた時、そこにあったのはリョクの植物によって逆さ吊りにされている伊折の姿であった。その瞬間リンネがわあと歓喜しトキに抱きつく。それを受け止めセナに笑いかけた。セナはふっと笑う。
一方、林檎は額に手当てあの馬鹿…!と溜息をついた。劉院がだっさと文句を垂れる。姫は未だに劉院の後ろに隠れていた。

審判の試合終了の合図と共にドサッと体が地面に叩きつけられる。

「いって!!お前なあ!もうちょっと優しくおろせよ!」
「君は相変わらず頭に血が昇るとすぐに大雑把になる。」
「話聞けよ。」
「頭を冷やしますか?」

そう言って再び人差指に水を集め始める彼に慌てて分かった分かったと静止を促した。

「すごい…。」
「花鈴さんの言うとおりだった!!花鈴さんすごーい!」
「まあ、予想通りってとこか。」

チームメイトの元へとリョクに支えられ戻っていく伊折に花鈴が苦笑いを浮かべた。
林檎に電流を流されそうになって慌てている彼は昔とまったく変わっていない。いつも先陣を切る彼だが大抵は負けて帰ってきたものだ。実力は申し分ないのだがいかんせん馬鹿である。

「まったく…呆れられても仕方ないからね…。」

こうして、チームオベイVSチームグリーンの対抗戦が終了した。
勝者、チームグリーン。
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