キミに指向性

チーム結成から1週間。未だに俺はこのチームに馴染めずにいる。いや、馴染めないというより馴染める気がしない。
チームリーダーは気分屋で適当、女子は口うるさい奴とウジウジしてる弱虫。こんな奴等とどうやったら仲良くできるんだ。
とにかくこいつらといるとイライラして仕方がない。特に、こいつ。

「りゅ、り、りゅうっり…劉、院くん!その…えっと…あの…。」
「何だよ…用があんなら早く言えば?」
「ご、ごめん…。」

木ノ瀬姫。怖がり、泣き虫、弱虫、とにかくネガティブで自信がない。見ているだけで腹が立つ。

「お前さあ、すぐ謝るのやめろ!俺が悪いみたいだろ…。」
「ごめん…なさい。」
「ほらまた謝る…!はあ…。」

額に手をつき溜息。ビクリと彼女の長い髪が揺れる。だらんと伸ばされたそれが揺れると、何故かまた気分が阻がれる。邪魔じゃねーのかよ。大体前髪長すぎ。

「ダメだ…。」

イライラしているからかくだらないことにまで腹が立つ。こいつの髪なんかどうでもいいだろ。
…とは思うもの、一度気になってしまうとキリがない。

上から下まで改めてじっと観察してみる。見れば見るほど地味。いつも下ばかり向いてこっちを見ようともしない。そんなんだから他の奴等に舐められるんだ。

「…お前ちょっとこっち来い。」
「えっ。」

我慢ができず姫の腕をつかんでぐいぐい引っ張る。数メートル先でギャーギャーと騒いでいたチームメイトのもとへとずんずん歩いた。
ふとこちらに気がついた2人が顔をあげる。すると同時にはっとしたように口を開いた。

「劉院!あんたまた姫いじめてるの!?」
「お前なあ、チームメイトなんだからちょっとは…。」
「いじめてなんかねーよ!!」

勝手に決めつけてんじゃねーよと腹を立てる。ああ、まったくこのチームは俺の機嫌を損ねるのがとにかく得意らしい。

「林檎なんか結ぶもん持ってねーの?」
「リボンならあるけど?何に使うのよ。」
「いいから貸せ。」

手をずいっと差し出せば生意気…!と林檎が呟いたがそんなことは気にしない。ポッケから取り出された緑色のリボンを黙って受け取り振り返った。
再び彼女がビクリと肩を揺らす。

「座れ。」
「は、はい…。」

姫が座るのを確認し、後ろに回る。じっとしてろ、と声をかけ髪に手を伸ばした。
生憎櫛は持っていなかったので手櫛になったがさっといつもやっているように髪を束ねた。伊折と林檎はというとその様子をただ黙って見ているだけで口を挟むことはなかった。

「よっし、もういいぞ。」
「あ、ありがとう…。」

綺麗に結べたことを確認し、解放してやる。すると次の瞬間、林檎が目を輝かせた。

「姫、あんたそっちの方が可愛いじゃない!」
「おーいいね。邪魔にもならねーし、結んだ方が絶対いいよお前。」

俺の結んだ髪を見て伊折も頷く。姫はそっと結んだ髪を触りどこかぎこちなさそうにそうかなあと呟いた。

「前髪、切ってこいよ。それじゃあ視界が悪いだろ…怪我すんぞ。」
「劉院ったら優しいとこもあんのねー。意外。」
「はあ?」
「あんまりいじめてばっかいるから心配してたけど…なんだ、うまくやってけそうじゃん。」
「まさか。見ててイライラしただけだっつの。…今日はもういいだろ!帰るからな!」


ニヤニヤ笑う2人を置いて帰路につくことにした。くだらない。俺は気に食わないことがあったから解決しただけだ。あんな奴のためだなんて冗談じゃない。

「あ、ま、待って…!」
「っ…なんだよついてくんな!」
「でも…えっと…。」
「はーやーくーしーろー!!」
「あ、…ありがとう!」
「…。」

ぼそりと呟かれたその言葉にふんっと鼻をならしそっぽを向く。何も応えず再び歩き出した。

翌日、ちゃんと前髪を切ってきた姫に林檎は緑のリボンをあげると言って手渡した。

それを遠巻きに見ていた俺は伊折にバンッと背中を叩かれたので思いっきり足を踏み返してやった。
こんな奴らとこれから一緒にいなきゃいけないのはうんざりだ。でも、もう少し付き合ってやろうじゃないか。
まだすべてを決めつけるには早いのかもしれない。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -