赤ブン | ナノ
 
courtship




夜も明け方に近付いたとき、ふとあの赤い人を思い出す。隣にいるのに。
隣で寝ているのに。



「…せんぱい、」
どこか、遠くにいるようなそんな感覚。

そうなると俺はこの赤い人を想いながら静かに涙を流す。

「寝てる…よ、な」
そう言い、先輩に唇を重ねる。



分かっている。
何故こんなに感傷的になっているのか。
俺たちはいずれ、離れる運命だ。
だけど、伝えられずにはいられない。

「愛してるよ…丸井先輩」
離れたくない、ずっと傍に居たい。
そう思いながらまたキスをした。
それから、もう寝ようと、
目を閉じかけた刹那。

「あかや…、」
目を見開いて驚いた。
普段は起きない筈の先輩が起きたからだ。それに、抱き締められている。

「先輩…っ」
「なに、泣いてんだ」
と言い撫でてくれる先輩の手は暖かくて。

「…終わりが見える
俺らの恋に嫉妬してました」
なんて、冗談混じりに逃げるように言う。

先輩は悲しい顔して、
「赤也…、好き」
と滅多に言ってくれない「好き」って言葉を俺にくれた。

胸が苦しくなって、俺はぎゅうと先輩を抱き締めた。
先輩も泣いていた。

この、先のない悲しい恋に
どうか、終止符を


end


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