最近、牛頭丸が私を避けている。元々仲の良くなかった私たちがお互いに心を開いて、そう時間は経っていない。形としては所謂こ、恋仲というもので、お互い気持ちを伝えて今に至るわけだけれど。

「何なのよ?」

朝の挨拶は私の顔も見ないし、学校から帰宅しても知らん顔。ただいまって言いに行ってもああ、の一言で逃げていくし、夜は姿も見せない。私が何かしたっていうの?

口喧嘩は比較的に減った。言い合いなんかは日常茶飯事でそれさえも嬉しく感じていたというのに、こうも避けられると近頃は会話さえまともにしていない。いくら考えようとも避けられるようなことをした覚えがない。何か気に障ることした?ご飯が凍ってるのはいつもだし…ああ、本当に分からない。

若と帰宅して自室で着替える。やっぱり着物が一番落ち着く。着替え終わると牛頭丸を捕まえることを決意し部屋を出た。
考えに考え、出た結論は直接話してもらうこと。あれだけ考えて、悩んで答えが出なかったんだもの、聞くしかない。避けられる理由を。


庭に出て木を見上げて探すも見つからない。最近では定位置にも居座らない。私に見つかるのが嫌とみた。そう考えてイラついた。ここまでくれば意地よ!そりゃあ最初は傷ついたし悲しかった。泣いた夜だってあったわ。けれどここまでされたら悲しさ通り越して怒りよ!
半分イライラしながら牛頭丸を探すと同時に馬頭丸も探す。馬頭丸なら牛頭丸の居場所知ってる筈だもの。



スパンッと牛頭丸と馬頭丸に用意された部屋を開けると牛頭丸がいた。牛頭丸はビクリと肩を震わせて振り返った。刀の手入れ中だったらしい。今思えばはじめに部屋を訪ねておくべきだったわ。

「ただいま」

「…おう」

目を逸らされた。イライラする。牛頭丸は手入れ道具を片付けようと立ち上がった。ああ、また逃げるのね。せき止めていた気持ちが溢れ出るのが自分でわかった。胸が苦しい。

「…どうして避けるのよ」

「あ?」

複雑な顔をされた。否定出来ないでしょう?事実なんだから。

「私が何かしたならいつもみたいに言えばいいじゃない!」

「おい、」

「小言や嫌みを言われてる方がどれほどマシか、「雪んこ、」どうして避けるのよ!?伝えてくれなきゃ分からないじゃない!」

止まらない、イライラも悲しさもぶり返して止まれない。分からない、分からないのよ。好きな人に避けられる辛さがあなたに分かる?顔もろくに見せてもくれない、話もさせてくれない。何をしたらいいの?何をしたら牛頭丸は私を見てくれるの?答えの出ない疑問を何度頭の中で繰り返した?

「理由くらい言ってくれてもいいじゃない…謝りたくても、謝れないじゃない…」

鼻で息をするとぐすっと情け無い音がした。目から溢れ出た涙が頬を伝う。
悲しかった。寂しかった。分からなかった。怖かった。嫌われたのか、理由はなんなのか、分からないことだらけで頭がぐちゃぐちゃになって。イライラして、どうしたらいいの?

「雪んこは悪くねえから泣くな」

道具を置いて近づいた牛頭丸が困ったように頭を掻いている。久しぶりにちゃんと見た顔。遠慮がちに私の涙を牛頭丸が指で拭った。

「お前が悲しんでることに気づいてやれなくて悪かった」

「…理由は何なの?」

聞いたらピクリと指が離れた。牛頭丸はバツが悪そうな顔をしている。

「言えないこと?」

「いや、なんつーか、」

牛頭丸は照れたように目線を泳がす。私はじっと牛頭丸が口を開くのを待った。

「くだらない理由だからって笑うなよ!?」

私は黙って頷いた。少し躊躇いながら牛頭丸は口を開いた。

「…怖かったんだよ、」

「え?」

怖い?少し色づいた頬で目線は泳いだまま牛頭丸は続ける。

「時々スゲェ…だ、抱き締めたくなって、今だってそうだっ!急に泣きやがってっ!」

「な、泣かせたのはあんたじゃない!」

「だから謝っただろ!」

というか、抱き締めたいって何よっ!
すっかり涙は止まって代わりに頬に熱が集まる。きっと牛頭丸以上に赤い。

「そういう顔がタチわりぃんだ!」

「し、知らないわよ!大体怖いって何よ!?氷付けにでもされるってこと!?」

「ちげぇよ、逆だ。…抱き締めたら溶けて、消えそうだったから」

「はぁ?」

呆れた、溶けて消えるですって?

「バカみたいな理由で悪かったな!」

やけになって声を張る牛頭丸は真っ赤できっと私も真っ赤。

「ホントにくだらなくてバカみたいだわ」

あれだけ悩んで悲しんでいたというのに抱き締めるのが怖くて避けてたですって?ついさっきまで泣いていたことや怒っていたことさえくだらない気がしてきた。

「私はそんなに柔じゃないわ!」

「なら抱き締めていいのか」

今度は私が肩を震わせる番だった。牛頭丸を見ると恥ずかしそうに、それでも真剣な目。
そんなの、答えなんて考えるまでもないじゃない。

「っ!?」

私から抱きつけば牛頭丸は小さく声を上げた。自分でも恥ずかしくてぎゅうとしがみつく。ゆっくりと背中に手がまわされて優しく抱きすくめられた。

抱き締められて思った。今までの不安が吹き飛ぶくらいに安心できる。温かいのが心地いいなんて初めてだわ。数えればたった数日。たった数日まともに会わなかっただけでこんなにも恋しいだなんて。足りない。まるで不足していた分を取り戻したいみたいに牛頭丸に触れたい。そう思って未だ遠慮がちな牛頭丸に更に抱きついた。

「今度避けたら許さないんだから」

「ああ、もうしねえから」

返事と共に強く抱き締められた。牛頭丸の匂いと体温に包まれて凄く落ち着く。

すっ、とどちらともなく離れる。お互いに背中に回した腕は離さずに。牛頭丸を見れば目が合って、嬉しいなんて。

顔が近づく、目を閉じる。
もう、我慢だとか遠慮だとかしないでよ。私、あなたが思ってるよりずっと好きだから。溶けてもいいくらい牛頭丸が好きだから。



110201.
title:リッタ
(牛頭丸ー……何してるの?)((馬頭丸…))(牛鬼様ー!牛頭丸が雪女とちゅーしてたぁ!!)(まっ!待ちやがれ馬頭丸!)(…まだしてないわよ)