≫7万打記念リク小説


食事番の私の朝は早い。日が上がっていない薄暗い時間に廊下を歩く。今から朝食の準備。夜中に騒ぐ妖怪たちも冬の寒さはこたえるらしく静かなものだわ。

縁側沿いの廊下を歩きながら息を大きく吸う。冷えた空気は心地いい。私の季節は何と言っても朝が一番。空気が澄んでい「寒ぃっ!」

「………」

朝一番の心地よさに浸っていたというのにこの男はっ!体を縮めて震える姿はだらしがない。それでもキチンと結われた髪と着替えてある姿を見ると今しがた起きた様子でもない。牛頭丸は縁側の柱に持たれながら座っている。体には毛布を巻きつけていて鼻が赤い。ずずっと鼻を啜ると息を吐く。

少々イラッとしたから軽く息を吹きかけてやる。

「冷てっ!?バカッ、止めろ!」

牛頭丸は毛布を頭から被り防ぐがあまり意味はない。(その気になれば毛布ごと氷付けよ)

「何しやがるっ!あー寒ぃっ。」

「あんた何してんのよ。」

わざわざ風の当たる縁側に出て一体何をしているのか。寒い寒いとボヤきながらそこを移動する素振りはない。

「あ゙ぁ?見張り番だ!ったく、このクソ寒いってのに見張り番押し付けやがってっ!テメェんとこの奴ら頭おかしいんじゃねぇか?」

悪態を付きながらも居座るところを見ると牛鬼様に命令されたのかしら。分かりやすい男。

「ふん、本家に居座ってる身分なんだから働いて当然よっ!」

「好き好んで居座ってるんじゃねぇよ!」

反論しながらも鼻を鳴らすものだから怖くも何ともない。相手にするだけ時間の無駄と判断して通り過ぎる。通り過ぎても寒い寒いとボヤいている。まさか一晩中ボヤいていたのかしら。ボヤいて暖かくなるわけがないのに。



台所に入り朝食の支度を始める。下準備は前の日に済ましてあるけれど人数が人数なだけあって一苦労だ。食事番は他にもいるけど冬の朝はみんな遅い。夏に使い物にならなくなる私はその分冬に働くようにしている。

魚をコンロに入れ味噌汁を火にかける。台所が暖かくなってきてふと、さっき鼻を赤くして丸まっていた牛頭丸が頭に浮かんだ。まだあそこでボヤいているのかしら。みんなが目覚めるまでまだまだ時間がある。何故頭にあの男が浮かぶのか分からないけど鼻を擦る指先も赤かったのを思い出し仕方なしに湯のみを出した。



(あんなに寒がって縮こまっていてもし敵襲があった時戦える訳ないじゃない?組のためよ組のため!)

言い訳を頭で繰り返しつつ廊下を歩く。盆の上に入れたばかりのお茶と厚手の毛布を手に赤い鼻の牛頭丸のもとへ。台所を出る時に入れ違いで他の食事番の子が来たから火の元の心配はいらない。廊下を曲がると庭が見えた。縁側の柱にはさっきと同じように持たれて座っている牛頭丸の背中があった。

「あ゙ー寒ぃ。」

近づくと声が聞こえた。まだボヤいていたらしい。喋っていないと死ぬのかしら。

「毛布一枚でそんな所にいるからよ。」

「あ?」

見下ろしてやると変わらず赤い鼻でこちらを振り返ってきた。すんっと鳴らした姿が可愛かったなんて目の錯覚だわ。
しゃがんで盆を床に置いて毛布を牛頭丸にバサッとかけて包んでやる。驚いた表情でされるがままの牛頭丸の顔にズイッと湯飲みを出せば任務完了。牛頭丸は湯気の立つ湯飲みを覗き込みながらもぞもぞと毛布から手を出し湯飲みを受け取った。そのまま一口飲むとホッと息を吐いた。

「雪ん子のクセに気が利くじゃねぇか。」

「素直にお礼言えないわけ?大体あんただけよ、そんな薄着で見張り番やってるの!」

屋根の上で見張り番をしてる三羽鴉はもっと厚着して人間が使うカイロってやつまで使って暖をとってるっていうのに。

「うるせぇ。」

両手で湯飲みを抱える姿を見ると笑う気も起きない。夏場にあれほどバカにされたというのに世話を焼きたくなるのは女の性かしら。手を出したことによりずれた毛布をしっかりと牛頭丸にかけてやると立ち上がる。まだ仕事の途中だ。他の食事番もそろそろ起きただろうし戻らないと。

「あとちょっとなんだから凍死しないように精々気を張ってなさい。」

「ケッ、テメェこそ火なんざ触って溶けんじゃねぇぞ。」

余計なお世話よ、とは返さず手にした盆で肩を叩いてやった。痛がる声が聞こえたけど気にしない。

さて、暖かい朝食作ったら呼びに行ってあげるからそれまで寒さに凍えてなさい!



110121.
title:Aコース