「バーカ。クズがどれほど集まろうとクズなんだよ。」

誰一人として聞こえてないだろうけど。ああ、またローファーが汚れた。今日もよく手入れをしておかないと。
屋上は今さっき返り討ちにした生徒の山だ。増えた打撲と出血で巻いていた包帯は破れたり血が滲んでいたり。

「惨めな格好がさらに惨めになったじゃないか。」

蹴飛ばした鉄のパイプがカランと鳴った。
さて、どこに行こうか。いっそのことこのまま下校もいいが放課後の掃除と施錠があるし。…もしかして、コイツらの始末って僕が…?

「はぁ、とりあえず治療だな。」

保健室だなんて面倒くさい。生徒会室に行けば一通りの治療道具が揃ってるしそれで事足りる。
屋上を去ろうとくるりと踵を返した。

「…ホントに趣味が悪いよね。」

「……いや、だから不可抗力だって。」

屋上への入り口の上、給水タンクの隣に見えたデカい影。紛れもなく梵天丸だ。

「それも、女の子がリンチされてるのを傍観する変態だ。」

「違ぇっ!!割って入ろうとしたらお前が凄い勢いでなぎ倒していくからだなっ!」

「僕を怪物みたいに言わないでよ。見物料金としてコイツらの処分お願いね。」

「ちょっと待て時人っ!お前どこ「治療しに行くんだよ!」

施錠しにまた来るからと伝えながらひらひらと手を振って屋上を後にする。
面倒を梵に押し付けられて満足だ。おまけに暴れたお陰で気分も晴れやか。残念なのは惨めな格好とさらに痛めた身体だ。あのまま梵を発見出来なかったら悲鳴をあげる右足を引きずってたところだ。只でさえアキラにやられた一番の重傷箇所なのにあろうことかもろに釘バットがヒットしたんだ。正直立ってるのも辛い。どうやらそこら辺の喧嘩バカまで引きずり込んできたらしい。といっても身体能力で僕があんな奴らに負けるはずがないんだけど。

生徒会室の前まで来た。右足の痛みは歩を進める毎に増すみたいだった。立ち止まり見てみると自慢の白い足には朝病院で取り替えたばかりの包帯が足首辺りから真っ赤になっていた。釘で抉られたか。くそっ!もっと痛めつけてやればよかった。

「げっ!時人!今授業中だろってその傷なんだよっ!?」

「煩いな。遊庵こそなにしてんのさ。今授業中でしょ?」

扉を開けたらソファーに寝転がってた遊庵がいた。コイツ幹部のクセしてサボってたな。吹雪さんにチクってやる。いや、ひしぎに言った方が面白いかもしれない。とりあえずギャアギャア煩い遊庵は放ってロッカーの中の救急セットを取り出す。それを持って遊庵の向かいにあるソファーに腰を下ろした。

「誰にやられたんだよ?」

「関係ないね。自分で解決した。」

「解決ってお前なぁ、おしとやかに出来ねぇのかよ。」

「敵を前にして?それこそこんな怪我じゃ済まないね。」

遊庵の相手をしながら左腕の包帯をといて新しい包帯を捲く。いつもなら病院で全部やらせてたのに。やっぱり下校すべきだった。放課後にまた登校して施錠だけしとけばよかった。にしても包帯って面倒くさい。

「………おい。」

「何さ。」

「不器用にも程があるだろ!」

「さっきから煩いな!片手だから仕方ないじゃないか!?」

「いや、その分だと両手だろうと悲惨な姿になるぜ?」

「…………。」

巻いたことないんだ仕方ないじゃないか。確かに左腕の包帯はガタガタのユルユルで今にもずり落ちそうだ。無駄に包帯を巻きすぎな気もする。不器用って…確かに裁縫とか苦手だけど。

「ちょい貸してみろ。」

遊庵は下品にもお互いの間にあったローテーブルに座ってきた。ニヤニヤした顔が憎たらしくて顔を歪めて睨んだけど相手にされず包帯を取られた。腕に巻いていたそれも取られ元のロールに戻されていく。

「俺こういうの得意〜。」

「ああ、無駄に巻いてそうだよね。」

目とか腕とか。そう言えばケタケタ笑われた。何が可笑しいのかさっぱりだ。
鼻歌混じりに遊庵は素早く包帯を巻いていく。それも綺麗に。キツ過ぎず緩過ぎず丁度いい締め付けでテキパキと腕、足の包帯を替えていく。それが悔しくて眉を寄せて見ていた。
右足の汚れた包帯を取り去ったとき鼻歌は止んだ。

「う、わっ!?お前っ!これひでぇぞ!?」

「ホントだ。消毒しとこうか。」

「消毒ってか抉れてんぞ!」

「釘がめり込んだからね。」

一々騒がないでよ。確かに想像よりちょっとグロテスクだけど。やっぱり後でアイツだけ潰そう。消毒液をかけるとピリピリとしみた。遊庵はまだ譫言みたいに釘って呟いてる。血なんて見慣れてる筈なのに。

「ほら、ガーゼ押さえてるから早く巻いてよ!」

「何かお前の細い足首が血だらけなのって結構グロいわ。白い分引き立ちやがる。」

とりあえず細い白いにはお礼を言っておいた。包帯を巻き終わると救急セットをロッカーに直す。小さな傷は包帯を巻かれてる間に消毒して絆創膏を貼った。また随分と惨めで悲惨な格好になってしまった。

「じゃあ僕は行くけどサボりも程々にしないとひしぎにチクるからね。」

「ばっ!せめて吹雪にしてくれ!ひしぎの方が怖ぇんだぞ!?」

「だから言ってるんだよ。それじゃ。」

「待てよ、その怪我詳しく聞かせろ。」

部屋を出ようとドアノブに手をかけたら声色の変わった遊庵に引き留められた。

「言うと思う?それにもう解決したって僕は言ったよ。」

「…ま、鬼眼関連じゃなさそうだしいいか。」

「どういう意味?」

「今度は俺様も暴れてやろうと思ってな!」

見てるだけはつまんねぇだなんて。遊庵もアキラも見えないだろ?遊庵にもどうやって見てるか聞いたらお前には分からないと同じくバカにされたから荒々しく生徒会室を後にした。決めた。ひしぎにチクってやる!



100915.





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