休み時間は授業に支障のない程度に屋上の見回り。授業への促し(教室への強制送還)の後その他一般生徒の出入りが無きよう毎回の施錠(もちろん解放は鬼眼たちがする)。放課後には掃除が課せられている。
つまり、アイツらの出したゴミに加え煙草の処理まで僕1人がやらなくちゃならない。屋上に続く階段は会議で一番近い教室の生徒に義務付けられたからよしとしよう。

正直なところ掃除もアイツらにさせればいいと思う。それが出来ないのは夏休み中の一件、生徒会の敗北に関しては公に出来ないからだ。幹部の尊称に関わるのは目に見えているし今回の件で叔父さんの目が幹部に向けて光ったこともある。屋上の使用許可と掃除の義務付けを課すには難しい話、朝会で名指しに命令しなくてはならないのが学園のルール。しかしそこを何とか暗黙の了解として過ごしているのは双方の了承の下での成立でこれ以上アイツらに不服を与えるとその均等さえ危ぶまれるからだ。
先に屋上の使用許可"だけ"を与えたのはこちらなわけだし嫌々頷いた鬼眼もバカじゃなくそれ以上の干渉は却下した(多分ひしぎはこうなるってわかってやったんだ。きっとこれは負けた僕への罰だ)。

簡単に言うならこの屋上に関してヤツらは生徒会以上の権利を持ち尚且つこの僕をいいように扱えるということだ。本当に腹立たしい!

「あれ?誰も居ねぇのかよ?」

ガチャリと開いた扉から梵が出てきた。頭を掻きながら屋上を見渡すと入り口の側にもたれて座り込んだ。

「掃除してるんだからこれ以上ゴミを増やさないでよね!」

「おー、ご苦労なこった。」

誰の代わりだと思ってるんだ!怒鳴りたいのを抑えて箒を握りしめた。プラスチックの柄がミシミシと悲鳴をあげたが無視して掃除を再開する。

「いい場所だろ?結構居心地がよくてよぉ。雨の日以外はずっとここで過ごしたくなる。」

「…分かるよ。」

見上げたら赤みがかった空が何の邪魔もなく見渡せる。いつもは遠い空が近くに感じれるし吹く風は爽やかで心地いい。遠くから聞こえる下校中の生徒の声や部活の掛け声もどこか趣があるように感じられる。コイツらが欲しくなったのも理解できる。

「でもそれとこれとは別だよ。」

「何がだ?」

「ここが心地いいのと僕にとって憎らしいのは関係ないってこと。お前たちが居なければ憎らしさも半減するんだけどね!」

舌を出して顔を歪めてやると苦い顔で笑われ会話はそこで途切れた。

屋上といっても広さはあまりない。フェンスによって仕切られたこの入り口付近の一角だけが立ち入ることが可能でそれ以外の場所は業者関係者のみが行き来できるように鍵は叔父さんが所持している。その叔父さんさえ鬼眼に甘いというのだから掃除範囲の拡大も時間の問題かもしれない。

ちりとりにゴミを入れて後は特別に設置させた屋上に続く階段の脇にあるゴミ箱に入れるだけだ。ゴミ捨ては階段担当クラスに押し付けたから行く必要はない。

バタンと扉が開いた。耳障りな音に振り返ると見知らぬ男子生徒がいた。

「屋上は立ち入り禁止区域だ。出ていってくれないかな。それとも迷子なの?」

大体予想はつくがあえて話は振らない。ここ最近、僕を憂鬱にさせる出来事の一つ。

「好きです!」

愛の告白ってやつだ。
鳥肌と寒気に耐えなければならないこの瞬間がとても嫌いだ。返事はNO。誰が来ようがOKを出すつもりなんて毛頭ない。

「それはどうも。でも僕は好きじゃないから早く出て行ってよ。」

掃除の邪魔。そこまで言うと泣きそうな顔で睨まれた。睨みたいのはこっちだ。

「最低だって本当だね…。逆に清々したよ…。いつまでもそんな断り方してたらひどい目に合うんじゃない?」

「僕の勝手だね。」

逆ギレだなんて甚だしい。言い返すと相手は顔をしかめて踵を返して歩き出そうした。けど男子生徒は一歩踏み出したところで気づいた。ずっと入り口の側で座っていた梵に。男子生徒は梵を見た瞬間ピクリと肩を震わせてから歩き始め屋上から出て行った。

「ありゃひでぇ言いようだなぁ。」

「立ち聞きなんて趣味が悪いね。」

「どう見ても不可抗力だろうが。」

若いっていいねーだなんてオヤジ臭い。
少し強い風が吹いた。ちりとりから塵が飛んでいく。掃除し直すのも面倒だからそのまま校舎内に入り扉の横にあるゴミ箱にゴミを入れて用具を直してもう一度屋上に出た。梵は立ち上がって伸びをしていた。

「モッテモテだなぁ時人〜?」

「くだらないこと考えてないで受験生らしくしたらどう?」

「勉強なんてタチじゃねぇんだよなぁ。そういや灯が言ってたぜ?しょっちゅう告白されてるらしいな。」

「クズに告白されても気分か悪いだけだ。部をわきまえて欲しいね。」

「黙ってりゃ可愛いのによぉ?」

グリグリと頭を撫でられた。別に嫌いじゃないけどぺしっとはねのける。

「余計なお世話だね。見てみなよ?全部悪いのはこんなにも傷だらけにしてくれたアイツだ。まだ痛いんだからな。」

そう言うと梵は苦笑いしてまた頭をポンと撫でた。
夏休みが明けて間もない今でも包帯や絆創膏で情けない姿を晒している。流石に理由を聞いてくるバカはいないが目がそれらを追っているのがわかる。

梵が屋上を出た。それと同時に部活終了と一般生徒の下校チャイムが鳴った。僕も梵の後ろを付いて出てポケットから屋上の合い鍵を出してしっかりと扉を施錠した。



100905.





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