「あっちぃなぁ。早く終わらせようぜ?」

「そうよねぇ。灯ちゃん溶けちゃいそうだわぁ。」

ミンミンと蝉が煩い季節。場所は校庭。クラブ活動も休みに入り校内の立ち入りが禁止された時期に問題児集団と僕達生徒会幹部は暑い中対峙していた。

「で、用件は屋上の使用の自由でしたか。どうします吹雪。」

「ま、堂々と喧嘩申し込まれてんだ受けて立てばいいんじゃねぇか?」

「喧嘩ではなく交渉と言ってほしいですね。我々が勝てば自由に屋上の出入りが出来る権利をいただきたいんです。」

「くだらないね!無視すればいいんだよ。僕は暑いのが嫌いなんだ早く帰らせてよ。せっかくの休みなのにわざわざ学校に来るなんて最悪だ!」

生徒会宛てに届いた申込書の通り集まればこれだ。妙に律儀な吹雪さんが時々分からない。

「……いいだろう。相手になる。」

「ちょっ吹雪さん!?こんなヤツら相手にしなくても僕らが勝つに決まってるよ!!時間の無駄だ!」

「正当な申し込みにはそれ相応の対処がある。」

「ま、喧嘩腰なんだけどよ。」

遊庵の茶々入れも虚しく吹雪さんは意思を曲げない。たまにバカ正直なところがある人で呆れたりするのは内緒だ。まあこんなにも近づけたから知れたことなんだけど。

「相手にならんと言うなら時人、お前がいけばよい。」

「え?僕でいいの?呆気なく終わっちゃうんじゃないかな?何なら全員で来ればいいよ。」

「では私がいきましょう。私が勝てば権利はいただけるということで構いませんか?」

「構わん。」

「1人でいいんだ?なんなら用件付け加えてもいいよ?結果は同じだからね!」

「では勝ってから私が決めるとしますよ。」


そう、今でも鮮明に覚えてる。僕はこの勝負に負けたんだ。白い半袖のカッターシャツは汚れて泥だらけ。ローファーも黒のズボンだって砂まみれで情けない格好で校庭に倒れたんだ。

「私の勝ちですね。」

本当に悔しかった。泣きたくなるのを必死でこらえた。それだけは僕のプライドが許さなかった。
傷だらけで血も滲んでて惨めだっただろう。約束通りにしようという吹雪さんの声が冷たく感じた。僕が負けたんだ。吹雪さんの顔に泥を塗ったんだ。

「おいおい、大丈夫かぁ?」

腕を掴んで起きあがらせてきたのは体の大きな梵天丸だった。

「ちょっとぉ、先にアキラの手当てでしょー?アキラだって傷だらけなんだから。」

「私は後でも構いませんよ。」

梵天丸の後ろから声がする。情けない僕に対する優しさかよ。余計惨めじゃないか。

「じゃあ服だけ脱いでいてね!手当てしやすいように。」

「離せよ!僕に触るなっ!」

「そりゃねぇだろ?ほらさっさと脱げよ。手当てし難いだろ?」

マズいと思ったが遅かった。その後の反応は様々で今思い返せば笑える。梵は叫びながら後ずさり、遊庵も大声をあげて、吹雪さんやひしぎは平然としていた。女だってバレた瞬間だ。

「僕が女で何が悪い!!一言も男だなんて言ってない!」

男だとは言ってないけど女だとも言ってない。制服からして男に見えるようにしたのは事実だけど勝手に解釈したのはそっちだ。確かに叔父さんの力は借りた。けど学ランの学園に上だけブレザーの生徒がいる方がおかしいだろ。

「……では休み開けから女子の制服で登校してください。」

「は?」

「用件ですよ。私が勝ってから決めると言いましたからね。スカートで登校してください。」

「用件は以上で構いませんか?」

「構いません。」

「ではこれで失礼します。時人は治療後生徒会室に来なさい。」


これが全ての元凶。
この後されるがままに治療された僕は言われた通りに生徒会室へ行った。幹部から降下だろうか。もう吹雪さんの側にはいられないのだろうかと考えていたが呼び出しの内容は全く違っていた。

「時人、あなたに屋上の管理を任務付けます。」

「…どういうこと?」

「つまり、アイツらには屋上の使用権利はくれてやったがそれだけってことだ!授業はもちろん受けてもらうし使用以外のルールは一般生徒と同じく守ってもらわねぇとな!」

「気にする必要はない。しかし責任を取ってもらうだけだ。仕事の一つだと思えば苦ではないだろう。」

「頼みましたよ。」


気にするよ吹雪さん。この経緯があってアイツらと嫌でも顔を合わせなくちゃならなくなった。おまけに何故か友好的に扱われてる。
梵にジュースを渡されたし、灯(そう呼べってしつこく言われた)にはお昼に誘われたし(断ったけど)ほたるには飴を貰った。鬼眼は相変わらずだけどこの間掲示板の高い位置のプリントを剥がしてくれた(大体あんな仕事僕にさせるな!)。

だけどアキラだけは違う。戦った相手だからか知らないけどアイツだけはムカつく。優しくもないしアイツのせいで僕は毎日憂鬱で、最近僕は僕じゃないみたいに目まぐるしく学校生活を過ごしている。




100830.





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