時人と出会ってまだ半年も経っていないわけだが毎日幹部室で顔を合わすし他の生徒達より親密だと感じていた。アイツの性格上同級生達と仲良くなんてしないだろうから尚更そうだと思っていた。

親密だと言ってもツンケンしてる時人は吹雪にしか懐いてはいなかった。その懐く姿も決して可愛いと呼べるものではなく……まぁ第一印象は可愛げのない後輩ってところだった。その印象は塗り替えられることなくこれまで過ごしてきたわけだが夏休みの出来事でそれも変わった。純粋に悔しがる姿や怒りを表す姿になんだ、そんな顔も出来るのかと思った。常日頃は嫌みったらしい、人を小馬鹿にした笑顔や怪訝な顔ばかりで憎たらしかったというのに、あの時ばかりは単純に年相応のガキじゃないかと感じさせられた。

女だったのは知っていた。ただ大声を出したのはあの梵天丸の野郎が躊躇いなく時人の服を破いたことだ。なんつーことを!時人は真っ赤になって怒鳴っていたがそういうところはやっぱり女なんだなと思った。

夏休み明けから約束通りに制服を変えてきた時人を可愛いと思った。案外真面目なんだな。バカのふりして女だったのかと騒いでやったがどうやら本人としてはかなり不満らしい。短いスカートがいたくお似合いだというのに。

それからというもの時人は目に見えて変わった。治療をしてやった時だってきっと今までなら触らせもしてくれなかっただろうに。不器用だったのは笑えたがそれもそうやって接することができたから知れたことだ。

時人が変わっていく。それが鬼眼たちのせいだってのはすぐに理解できた。アイツらの愚痴を零す時人を何度も見た。それは単なる毛嫌いから始まっていたのに最近ではやけにアイツらに詳しくなっていってて、時人の中でアイツらの印象が変わっていっているのが手に取るように分かった。

それと同時に時人の幹部室への出入りが極端に減った。まるで他に居場所が無いかのように毎日毎日訪れては何をするでもなしにその場に居たというのに(そのせいで吹雪とひしぎに雑用させられてたんだがアイツは気づいてたんだろうか。)こうも変わられると何というか、

「娘が親離れしていった気分だよなぁ。」

「は?」

隣を歩くほたるに怪訝な顔をされた。コイツのこういう時の顔は容赦がない。

「時人のことだよ。娘を他の男に取られた感じ?」

「何それアキラのこと?」

アキラねぇ。あの男があれほど献身的に時人に接しているとは予想外と言えば予想外だが…なんつーか敵意剥き出しだよな。

「アキラの奴、余裕がねぇんだろうなぁ。」

「昔からね。」

性格ってヤツはどうも面倒くさいらしい。

「そういえば時人、笑ってたとこ初めて見た。」

「ああ、俺もだ。」

螢惑の言ってることはついさっきの出来事だ。あんな風に軽口を叩き合うことも無かったからそれだけで内心驚いていたというのに。

ひしぎに対してはいつも冷たい態度の時人がひしぎの隣で大人しくしていたことにもビビった。吹雪第一のアイツはいつから吹雪を呼ばなくなった……?ひしぎにさえ嫉妬していた時人が最近では吹雪について話し出さなくなった。その代わりに、やはり増えたのは鬼眼たちの話。

「こりゃ妬けるね。」

「何に?」

「お前らに。」

「妬くようなこと?」

だから娘の親離れには親ってもんは少なからず寂しさを覚えるわけよ。………寂しい?時人がコイツらと仲良くしてるのが?バカバカしい、どこの乙女気取ってんだ俺は。

笑うことの無かった時人が楽しげに笑ったことはきっと俺に限らずひしぎだって驚いたことだ。アイツもきっと俺と同じように時人を想ってるに違いない。吹雪は吹雪で寂しく思ってるかもな。ハッそんなタマじゃねぇか。時人、お前結構気に入られてるみたいだぜ?居場所なんてもんは案外気がつかねぇもんだな。

結構螢惑は螢惑で時人を見てるし…なんだ、コイツらと上手くやれてんのか。よかったよ。妬けるのは変わりないがいい意味で時人を変えていってくれてるコイツらに感謝しなくちゃいけねぇな。きっと俺たちじゃこうはいかなかっただろうから。

帰路を歩く。家族の待つ家はすぐそこで、そこには賑やかな愛すべき奴らがいる。……はて、時人にはそんな家が待っているのだろうか。どこか生活感のないアイツからは家庭の話を一切聞いたことがなかったな。ひしぎから両親がいないことと育ての親は理事長ってのは知ってるんだが。

「家の中まで一人、なんてことなかったらいいんだけどよ。」

「時人のこと?呼べばいいんじゃない?」

俺んちにか?と聞けばコクンと頷かれた。それもいいかもしれない。うるさくて怒鳴り散らすかもしれないがその方が時人らしい。

「時人、時人って心配し過ぎ。」

「なんだぁ?ヤキモチか?」

「キモい。」

「心底嫌そうな顔だな。」


心配か……そうだな。案外ああいうヤツほどパッと消えちまいそうなのかもな。

「いや、逆に図太い可能性も……。」

「ぶつぶつ何言ってんの?先行くから。」

ガラガラと玄関を開けて螢惑は先に家に入って行った。いつの間にか家についていたらしい。俺様としたことが。

……どっちでもいいか。結論から言えばもう簡単に何処にも行かしちゃもらえないってことだ。気付かない内に仲間を増やしちまったんだからな。



110107.





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