やっぱりバカ虎が増えた。あのバカ絶対屋上に居座る。こういう感は当たるから嫌だ。

午後の授業はHRだ。昨日ひしぎの言ってた体育祭のメンバー決めでクラス内はガヤガヤとうるさい。学級委員が進行を務め教壇前で四苦八苦している。

アキラのことは午前の授業中ずっと考えた。キライは少し言い過ぎたと思った。キライなら大人しく一緒に登下校や夕食を食べたりしない、と思い直したからだ。脅迫めいた口調はあるけれど嫌なら嫌で対処の仕方はたくさんあったはずだしそれ程嫌がってない自分もいるから…うん。キライじゃない。だからちゃんと伝えたしアキラもいつも通りだったし大丈夫だ。

「大変だな。」

「……何が?」

振り返ってきたサスケの言葉が分からない。主語をつけてほしいんだけど。

「これの結果集計すんの生徒会だろ?」

「まぁ。でも正直体育委員会がやればいいと思うね。」

これ、とは黒板に少しずつ埋まっていく競技参加者の名前だ。集計して表を作ってプリントアウトして仕分けして。

「バカいうなよな。俺たちは準備と後片付けするんだぜ?あと当日の運営も。」

そういえばサスケは体育委員だったな。幸村のグループ全員が体育委員だ。おかげでここ数年体育行事での問題は極端に少ない。

「お互い大変、か。」

そう返せばサスケは苦笑を漏らした。

クラス対抗の団体競技は出場を余儀なくされるがその他の競技は人数制限付きだから足に自信のあるやつが出場すればいい。出たくないやつは団体競技以外全く出なくても構わない仕組みだ。

「サスケは出るんだね。」

「ん?まぁな。お前は?」

「パスだね。」

「出ろよな、勿体無い。」

勿体無いもんか。疲れるだけじゃないか。

「つか、体育祭出なかったら代わりに文化祭で活躍しなきゃなんねぇぜ?」

「その方がマシだね。それに怪我してる。」

「ふーん、それもそうか。」

そう、体育祭で団体競技を除く他の競技に全く参加しなかったら代わりに文化祭で何らかの役につかなきゃいけない。そっちの方なら裏方もあるし地味に過ごせる筈だ。

そういえば今日は用事があるからって灯に治療してもらってる時にアキラが言ってた。僕も委員会だし遅いとは伝えたけど。仕事がどうとか言ってたな。……アルバイト?想像できないな。





「暇だなぁ時人。」

「うるさいよ。」

委員会に参加者したもののやることがない。辰伶が各学年の集計を終わらせて持ってきたらしい。吹雪さんに労いの言葉を貰って嬉しそうだ。表作りはひしぎと会計と書記が今やってる。本当にやることがない。会議室でパソコンのキーボードを叩く音とシャーペンの走る音が鳴る。遊庵は僕の隣に座って天井を見上げてるし僕は頬杖をついてる。反対の隣ではほたるがだらしなく机に突っ伏してる。

「なーんか、体育会系の俺らはやることねぇなぁ。」

「一緒にしないでよ。」

「事実だろ?怪我しまくりじゃねぇか時人ちゃん。」

「馴れ馴れしく呼ばないでくれる?」

「とーきーとーちゃんっ!」

ムカつく。ああ、思い出した。

「ねぇひしぎ、この間遊庵が授業サボって生徒会室で寝てたんだけど。」

「バッ!寝てねぇよ!」

「聞き捨てなりませんね。遊庵。」

パソコンから目を逸らさず答えたひしぎに遊庵はますます焦る。自業自得だ。

「時人!チクんなって言っただろ!?」

「だってさひしぎ、事実だよ。」

「え゙!?」

「後々覚悟して下さいね?」

ようやくこちらを向いたひしぎは相変わらず無表情だけど威圧的だった(遊庵だけに対して)。

「マジかよ……俺トイレ行ってくるわ。おい、螢惑!連れしょん行くぞ!!」

「俺、さっき行った…。」

「先輩が行くっつたら行くんだよっ!」

「下品だな!早く出てけよ!!」

結局遊庵はほたるの首根っこを掴んで出て行った。全く、下品だ。下品過ぎる。
二人が居なくなって話相手が居なくなった。会議室には生徒会役員が数人とひしぎと僕だけだ。吹雪さんは幹部室で別件の仕事中だ。吹雪さんの邪魔はしたくないしなぁ。……仕方ない。

「どうかしましたか?」

「手伝うことある?」

「珍しいですね、時人がそんなことを言うなんて。」

「……暇だからね。」

移動してひしぎの隣に座ってパソコンの画面を覗くと競技種目欄に生徒の名前と学年が並んでいた。

「もうすぐ終わりますから大丈夫ですよ。」

「あっそ。」

けどやることがないから画面を見てることにする。ポンとひしぎに頭を撫でられて驚いた。ひしぎにそんなことされたの初めてだ。

「な、何さ。」

「つい、無意識に。」

「?」

「俺様帰還!!……何してんだ?」

「遊庵の悪行を報告してくれたことを褒めていたところですよ。ついでに罰として何をさせるかの相談を。」

「なっなんだと!?」

遊庵とほたるがトイレから帰ってきた。ほたるは少し考えてから話に加わってきた。


「女子の制服で体育祭参加…。」

「いいんじゃないそれ?ほたるの意見に賛成するよ。」

「ふざけんなっ!!」

「決定ですね。」

「う、嘘だろ?ひしぎ?」

「さ、完成しましたから部数をプリントアウトしましょうか。」

「ひ、ひしぎ!?俺の話は!?」

「諦めなよ遊庵。」

「ドンマイゆんゆん。」

「螢惑っ!お前が余計なこと言うからだな!!」

「体育祭が楽しみだね、時人。」

「そうだね。退屈しなくて済みそうだ。」

「お前らっ!!」

可笑しくて笑うと遊庵はバツが悪そうに頭を掻いて舌打ちした。ほたるはほたるで僕を凝視してくる。ひしぎはまた僕の頭を撫でた。

「どうしたのさ?」

「いえ、さぁ各クラス毎に枚数を仕分けて下さいね。」





結局先に全ページをプリントアウトして学校中のコピー機を使ってプリントを制作した。途中ほたると辰伶が喧嘩したりほたるが寝たりほたるがサボったり……結局ほたるが問題を起こしてたけど無事に終了した。窓から覗く空はもう暗い。随分遅くなったな。

「お疲れ様でした。解散しましょう。吹雪には私から伝えておきます。」

ひしぎの言葉に甘えて僕たちは会議室を後にした。
どうしょう、アキラは迎えに来るのだろうか。来ないのだろうか。先に帰っても大丈夫…かな?
門まで遊庵とほたると出る。今日は人影がない。やっぱり先に帰ろうかな。きっと送れないって言いたくて用事があるなんて伝えたんだ。

「アキラがいない。」

「そんな毎日いるわけないだろ?」

ほたるが不思議そうに言うものだから思わず返事をした。

「違う、さっきアキラから電話があったから。門にいるけど委員会まだ終わらないのかって。」

「ああ、連れしょんの時の電話か。」

ちょっと待ってよ!それ何時間前の話!?

「なんて返事したのさ!?」

「まだもうちょっとって。」

「ちょっとじゃないじゃん!!」

急ぎ足に門まで歩き出すと遊庵に後ろから怒られた。

「おいっ!怪我してんだろが!」

してるし痛いけどそれよりアキラは!?


「……………随分元気そうですね?」

「ア、アキラ……。」

門の外で自転車を止めてしゃがんで僕を見上げてるアキラを見てため息が出た。今日はまだ暖かくて良かった。

「お疲れ様でしたね。さ、帰りましょうか。」

バカだ、何がお疲れ様だ。笑顔で何言ってるのさ。言いたいことは沢山あるけど上手く言葉に出来そうにない。とにかく帰ろう。話はそれから。

「……。じゃあ僕こっちだから。」

「ん?ああ、じゃあな時人、アキラ。」

「失礼します。」

「ん、ばいばい。」

自転車に乗って出発。遊庵とほたるは逆方向に向かって歩き出した。

「……何でわざわざ学校まで戻ってきたのさ。何でバカみたいにずっと外で待ってたのさ。何で、何で……。」

「毎日送り迎えすると約束しましたし中に入ればお邪魔かと思いまして。」

約束した覚えなんてない。校舎の中にいれば良かったじゃないか。ああもう!

「アキラは勝手過ぎるっ!!」

「そうですか?」

「自覚しろよ!ったく、今朝だってそうだ。バカみたいに待って。今だって。」

「平気ですよ?」

平気なものか!一人で誰かを待つなんてそんなの、寂しいじゃないか。アキラが一人で僕のこと待ってるなんて想像しただけで苦しいじゃないか。

「…………連絡先教えるから。」

「え?」

「携帯!ほたると連絡取ったってことは持ってるんだろ?僕の連絡先教えるからもう勝手に待ったりしないでよね!」

「時人、あなた……携帯持ってたんですか?」

「バカにしてるわけっ!?持ってるに決まってるだろ!」

「持っている素振りがなかったので持っていないのだと思ってました。」

なっ!……お、叔父の連絡先しか入ってないから必要ないだけだよ。全くっ!持ってるかどうか聞くとかさ、なんかあっただろ?アキラって勝手って言うかなんか、

「…自己中だよね。」

「あなたに言われたくありません。」

「僕が自己中だって言うの!?」

「そうじゃなかったら何て言うんですか?傲慢ですか?」

「〜っ!ムカつくっ!!」

体を揺らして暴れてやると止めなさいと怒られた。知るもんかっ!



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