私はどうしようもないガキなのかもしれない。たった一言キライと言われただけで何をムキになっているのか。勢いで好きだなんて本音を漏らして、誤魔化して、逃げて。どこのガキだ。

気づいたのだろうか。私の下心に。怪我を負わせたのは私だけれどあちらも私に怪我を負わせた。これはイーブンだ。加えて逆恨みで襲撃にあったことは彼女の自業自得で私に関係がないのは明白だ。私も理解している。けれどついて出た謝罪には…そう下心があった。傍にいたい、独りにさせたくない。こんなのはエゴイズムの何ものでもない。それを彼女に押し付けて一体私は何をしたかったのか。反省したところでこのエゴを消し去るつもりは毛頭ないのだけれど。……気づいたとしても構わない。好都合じゃないか。意識して私を見ればいいじゃないか。彼女の中で少なからず変化があればいい。それが良くも悪くも、だ。とんだエゴイストだと嫌悪されたならそれで構わない。

「しけた面しとるで?」

「虎、授業中ですよ。」

「細かいこと気にしたらあかん。なんや難しい顔してるさかい気になっただけや。」

ガタガタと椅子を鳴らしこちらに近づいてきたのは紅虎だ。元々隣同士の席ではあるし、友人なので授業中の"一方的な"雑談も少なくはない。

「…あなたには関係ないです。」

「まぁ、大体想像つくわ。一年の特攻隊長やろ。」

「なんですかそれは?」

「特攻隊長知らんの?」

聞いたこともないと返すと虎は有名だと言う。

「時人のことや。特攻隊長。この間放課後に他校の不良が殴り込みに来てなぁ。」

「そんな話もありましたね。」

夏休み明けてすぐだったか。騒がしかったのを覚えているがあまり興味がなかった。

「いつもならほたるはんがちょちょいとやっつけるんやけどほたるはんはその日早退しててなぁ。」

「サボリの間違いでしょう?全く、」

「まぁまぁ、ほんで代わりに時人がちょちょいと片付けて追い返したんや。残ってた生徒は少なかったけどバッチリ目撃されとる。元々包帯巻いて大層に怪我しててのあの暴れ様や。暴れんぼー将軍、番犬、色々ついて結局定着したんは特攻隊長。」

「随分と女性につけるにしては物騒なネーミングばかりですね。」

「せやろ?けど黙ってれば可愛らしいさかい人気は高いねん。どっちかと言うとかなり偏った輩にやけど。」

「どういう意味です?」

「時人に叱ってほしー!とか蔑まれたーい!みたいな奴や。」

「…その割には逆恨みも多いんですが。」

「そらああいう子ほど服従させたい輩もおるやろし。」

「…………。」

そういった類に私は入っていないことを願いましょうか。

「まあ男の面子もあるやろうけどな。…て、幸村はんが言うてたさかいに。」

「…それと私との関係は?」

「最近よう構(かも)とるの見かけるしなぁ?せや、今日はお昼一緒にええか?」

「構いませんが時人がうるさいですよ?」

きっと部外者だとかなんとか言って騒ぐに違いない。
虎の行儀の悪い姿勢に気づいた教師の声によって会話は途切れた。虎は渋々こちらに乗り出していた体を戻した。だから授業中だと言ったのに、案の定教師に叱られている。私?役得ですよ役得。





「なんでコイツがいるんだよ!!部外者だろ!?」

「まぁまぁ、仲良うしてぇな。虎ちゃんて呼んでな?」

「誰が呼ぶかっ!!」

予想通りに噛みついた時人に思わず笑ってしまうとキッと睨まれた。誤魔化しついでにお弁当を手渡す。今日は昨日のメンバーと虎、ゆやさん付きだ。

「アキラさんお料理できるんですか!?」

「簡単なものなら。」

羨望の眼差しを送ってくださるゆやさんにそちらも可愛らしいお弁当じゃないですか、と返すと極上の笑顔で返された。可愛らしい女性だと思うけれど未だ虎と口論している時人もまた違った可愛さがあるだなんて考えた私は相当重症なのかもしれない。
ごそごそとゆやさんが取り出した男物の弁当箱は言わずもがな狂のものでこちらも彩りのきれいなお弁当だ。

「妬けちゃうわぁ。」

「灯さんもどうですか?」

灯は灯でゆやさんを気に入っているし口では狂が狂がとうるさいが二人を認めていたりする。私と違って大人だ。

「ねぇ、アキラ。」

「はい?」

いつの間にか虎と口論を止めた時人が私の隣に座ってお弁当をつついていた。元から私より背の低い時人は俯いていて表情は見えない。そういえば朝からまともに話すのは初めてか。

「朝のことだけど。」

「……。」

言わないで欲しい。嫌われて大丈夫なわけがない。エゴに重ねたエゴだ。ああ、私は何も変わってなどいない。かわいいのは自分だけだ。

「……ィ……な……。」

「え?聞こえませんよ?」

あまりに小さな声で私の耳に届かない。聞き取ろうと耳を時人に近づける。

「だ、から、」

「だから?」

「キライじゃない、から。」

「え?」

「コイツらと同じくらい好き…だから。だから、アキラだけ…キライなわけじゃない…よ。」

そう言ってちまちまとご飯粒を食べ出す時人の顔はさっきと変わらず見えない。それでも想像できるのはやはり私がおかしいのだろうか。騒がしい外野と隔離されたような気分だ。今度はゆやさんが虎と口論をしているのが遠くに聞こえる。
どうしたってこれほどまでに私を揺さぶる術を知っているのか。ため息も出ない。

叱られたい?服従させたい?バカなことを言う。怒った顔も弱った顔も見てきた。けれどやはり私は時人に笑っていて欲しいと思う。そしてその笑顔が私に向いていて欲しい。エゴイズムでも構わないじゃないか。人を好きになることがエゴと言うのなら私はエゴイストでいい。

今のところこの外野たちと同じランクなのはこの際良しとしようか。

「…ありがとうございます。」

この気持ちに答えを出させてくれて。
そして覚悟してください。逃がすつもりはありませんから。



101212.


あれ?変態チックだ。





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