ツカツカとローファーを鳴らして廊下を歩く。半年履いたが手入れを怠らなかったおかげで同い年のそれよりも綺麗に保ってある。
整えたリボン、シワのないブレザー。短いスカートや開いた第二ボタンにニーハイは僕の特権だ。誰も文句は言わないし言わせない。

生徒達は僕を振り返り道を開ける。スムーズに廊下の真ん中を歩けるのは僕の地位の高さかそれとも放つ怒りのオーラのせいか。前者だと信じたいが今の状態では9割が後者だろう。

人気のない廊下の端に階段がある。埃が一際目立つその階段に嫌々足をかけた。僕の靴が汚れるし空気が汚い。次の会議には掃除の徹底を唱えよう。


憧れだった吹雪さん。僕を小さい頃から知ってくれていて、認めてくれていた人。入学する前から努力してきた。この学園に入学することは容易いことだけど僕がなりたかったのはこの学園の生徒会で吹雪さんと同じく1年で首席。そして生徒会の幹部入りだ。
それがどうだ。こんなこと聞いてない。


「おいっ!授業が始まる!さっさと教室に戻れ!!」

昼休み、バンッと立ち入り禁止の屋上の扉を勢いよく開けると目の前には煙草の煙。煙たいのを我慢して声を張り上げた。
柄が悪い割にどこか品のある(しかも人気もある。かなりムカつく!)学園一の問題児集団は気にも止めない。

「あら時人ちゃんこんにちは〜。」

「おーおー、一年は元気だなぁ?」

「zzz…。」

「……。」

なんて屈辱だ。
僕が憧れた吹雪さん。歩けば皆が振り返り止まれば皆お辞儀をし座れば皆が整列する。愚民がひれ伏す絶対的な学園の支配者としての貫禄やあの高貴さに憧れて入った生徒会。それも生徒会の中でも吹雪さんと同じ幹部に所属したのにどうして僕はこんな屈辱を味わわないといけないんだ!!
僕の憧れたあの高台はどこだよ!

「煩い!ちゃん付けするな!好きで大きな声出してる訳じゃない!!寝るな!早く起きろよ!大体お前も生徒会だろ!?ああもう!煙草を堂々と吸うな!!」

言いたいことを一気にまくし立てるとケラケラと笑われた。本当に屈辱的だ。さらに憤慨すると後ろからクスクスと笑い声が聞こえた。ああ一番ムカつく声だ。見なくてもわかる。

「あなたはいつも騒がしいですね?イライラにはカルシウムがいいらしいですよ?今からでも購買に走れば牛乳くらい売ってるんじゃないですか?」

「誰のせいでイライラしてると思ってるんだよ!!」

振り返ると予想通り見たくもない顔があった。サラサラとした色素の薄い髪も口元にやった手も、扉にもたれたそのポーズも何もかもがムカつく!!

「アキラ!!お前もさっさと教室に戻れ!」

「おやおや、先輩を呼び捨てですか?一年如きが偉そうに。その言葉遣いをどうにかする方が先じゃないですか?」

ああイライラする!イライラする!その愛想の良さそうな面を引っ掻いてやりたい!

「とにかくここから出ろ!教室に戻れ!!」

「だってぇ灯ちゃん狂と一緒にいたいしぃ。」

「どーも教室の椅子と机が窮屈でよぉ?」

「ふぁあ。…眠たい。」

「今日はいい天気ですねぇ。狂、さっきゆやさんが探してましたよ?」

「……。」

言いたいことは沢山あるけど我慢する。さっきみたいに笑われるのがオチだ。代わりにキッと睨むけど相手にされない。

全部、全部の元凶はアイツなんだ。あの時アイツに負けなければ!!アイツにさえ負けなければ!!



「狂!!あんたまたこんな所で煙草なんか吸って!もっと高校生らしくしなさいよ!」

「あー?下僕が俺様に口答えしてんじゃねぇよ。」

「誰が下僕よ!?そんなことよりさっさと教室に戻りなさいよ!留年したいわけ?」

「てめぇに関係ねぇだろが。」

「関係大ありよ!来年もあんたの世話なんて嫌よ私!卒業出来なくて同い年の人はおろか年下にまでバカにされるのはあんた何だからね!?」

「……チッ。」


椎名ゆや。鬼眼を動かす唯一の女だと聞いていたけどまさか本当だなんて。一体僕と何が違うんだろうか。

突如現れた女はダルそうに腰を上げた鬼眼を急かすようにまくし立てながらも僕に挨拶して出て行った。その後をゾロゾロと四聖天と呼ばれる鬼眼の仲間がついて出る。女が来てからあっという間だ。僕の言葉には耳も貸さなかった癖に。悔しい。ムカつく。
最後尾のアキラが振り返りクスリと笑われた。顔をしかめるとそのまま扉をバタンと閉められた。

ああ、どうしてこうなったんだろうか。分かりきった答えを自問し続けるのが最近の悪い癖だ。空を見上げたら予鈴のチャイムが鳴った。授業開始まであと5分。深いため息と共に朝よりくすんだローファーでカツンと一歩踏み出した。




100827.





≪ 1