その日の放課後、僕は会議に出席していた。

体育祭、学園祭。夏休み明けから始まる学校行事に頭を抱えたくなる。僕はお祭り事が好きじゃない。
はしゃぐ生徒、乗り気じゃない生徒。やる気の違いによる苛立ちで進行しない計画。参加することに疲れた。小さな頃はそれなりに参加したような、しなかったような。

「ということで明日のHRでは各クラスで各競技の出場者を決める予定です。その後、提出されたデータを整理して冊子を作ります。各ページ人数分の枚数を数えて全クラスに配布、各クラスの生徒に作成を任せます。」

要は明日は仕事で忙しいってワケね。
ひしぎの機械的なスケジュールの説明を聞きながらぼんやりと外を見る。

生徒会室の隣にある会議室からはテニスコートがよく見える。今日は硬式テニス部がコートを占領しているらしく跳ねる黄色いボールを何気なしに目で追った。軟式はきっと外周だ。
室内には幹部4人と生徒会のメンバーが集まっている。
生徒会長は吹雪さんじゃない。辰伶とか言う二年生で確かほたるの腹違いの兄だとか。家庭事情に興味はないけどほたるのいい加減で掴みどころのない性格とコイツの真面目過ぎてある意味単純な性格とを比べると本当に兄弟か疑うところだ。共通点は負けず嫌いってことかな。この学園の生徒は殆どが負けず嫌いなんだけどね。生徒会は他に女が2人とへらへらしたメガネが1人、梵並みにデカいのが1人。一番謎なのは副会長がほたるだってこと。

「zzz……。」

「寝るな!!」

生徒会長に無理やり引きずられて来たほたるは僕に軽く目を送る(多分挨拶代わり)と机に頭をついて寝た。すぐに隣に座る生徒会長が起こしたけどふらふらして結局寝る。それに気づいた生徒会長が起こす。寝る。エンドレス。
やっぱり謎。しかも成績もいいらしい。そういえば鬼眼達は学力的にバカじゃない。人間的に問題はありまくりだけど…やらなくてもできる奴とやってるからできる奴の集合体だ。

「今日のところはスケジュール確認です。明日から忙しくなりますのでよろしくお願いします。吹雪、何かありますか?」

「いや、ではこれで会議を終了する。」

解散の一声がかけられると一旦全員が生徒会室に戻る。あとは仕事する者、遊ぶ者、帰る者、寝る者。僕達幹部は幹部室へと進む。吹雪さんとひしぎは仕事に取りかかり遊庵は遊んでるし僕は帰りたい。

生徒会長より偉い僕たちの役割はあまり変わらないけど幹部以外にも呼び方はある。例えば吹雪さんは学園内代表生徒長。ひしぎは学園内取締会議長。遊庵は学園内取締執行長。僕は学園内取締保安長。簡単に言えば生徒の代表と学園の行事とかの計画をする人とそれを実際に仕切って実行する人と学園の安全を守る人のこと。
吹雪さんは学園の顔、ひしぎは脳、遊庵は神経、僕は血肉ってとこ?そんな感じ。だから今の行事の進行具合だと遊庵はまだ動けないし僕は関係ないし忙しいのはひしぎだけ。吹雪さんは外部との接触関係を受け持ってるから色々仕事があるみたい。一般生徒の苦情だとかは生徒会の仕事。僕なんかは一番暇な役で特にすることがない。誰かが暴れてるのを止めたりってのが本当の仕事だとは思うんだけど生憎今の学園内に暴れるバカは少ない。不良グループの鬼眼たちが怖くて動けない生徒もいるし、動いたとしても小さくて生徒会が仕事してくれるし。だからひしぎに雑用させられたりするんだけど。正直言って僕たちの正式名なんて誰も覚えてないからみんな揃って幹部って呼んでるんだ。



「僕帰るね。」

吹雪さんにはきちんと挨拶してあとは適当に済ませて退室した。

「…あれ、帰るの?」

「うん、特に仕事も無いしね。」

「じゃ、俺も帰る。」

生徒会室で暇そうにボーっとしていた(多分寝起きの)ほたると一緒に廊下に出た。

「聞きたかったんだけど何で生徒会に入ったわけ?」

「あー、強そうだったから。」

「は?」

欠伸をしてまだ眠そうなほたるは天井を見ながら答えた。

「強そうな人の集団だと思ったから入れば戦えるかなって。」

「……で、戦えたの?」

「ううん、みんなガリガリ何か書いてばっかりだしつまらない。」

「じゃあ何でまだいるのさ?」

「辰伶が途中で止めるって言ったら怒って。ガリガリするの好きじゃないしうるさい生徒の相手してたらなんかそんな役になった。」

「…なんで副会長?」

「書記とか会計みたいに役割がちゃんとしてないし、名前どうしよってなってじゃ副会長でいっかって。だから副会長。」

「……そう。」

「狂といる方が戦えるし好きだけど。」

「喧嘩好きだね。」

「うん。」

こんなこと言ってる奴が生徒会でいいんだろうか。ちょっと疑問だけどよくよく考えたら僕の仕事を知らず知らずやってるってことだし黙ってよう。

「あれ、アキラだ。」

校舎を出るとほたるが少し驚いたように声をあげた。見ると門の横に今朝乗ってきた自転車と一緒にアキラが見えた。ほたると歩いていくと向こうも気づき会釈してきた。

「二人とも委員会お疲れ様です。」

「何で委員会って知ってるのさ。」

「廊下でほたるを呼ぶ辰伶を見たので。」

「あー、帰ろうとしたら怒られた。出席だけでもしろって。」

「…仕事しないのは分かってるんだ。」

「うん。ところでアキラはどうしたの?」

「私は時人を送る為にここで待っていたんですよ。」

「え、」

「ふーん。じゃ俺こっちだからバイバイ。」

「また明日。」

「あ、うん、また。」

門でほたると別れてアキラと二人になった。
時間的に下校する生徒は少ない。知ってたらもう少し早く出てきたのに少し悪いことしたかも。

「待ってまで送ってくれなくていいよ。」

「今日は予定もなかったですし。」

「ていうか、送ってくれなくていい。」

「そうも行きませんよ。それに、私がいなかったらほたるが送っていたでしょうし。」

「まさか。」

「私が待っていたことにあまり驚いていませんでしたから。きっと送るつもりだったんでしょう。」

「でも家逆方向だよ?」

「それくらいほたるもあなたのことを心配してるんですよ。」

「……し過ぎだと思う。」

「こういう時は知らないフリして甘えたらいいんですよ。さ、行きましょうか。」

「…うん。」

今朝と同じようにアキラの後ろに乗ると自転車がゆっくり進み出した。

甘えるとかよく分からないけど心配されてるってことはよく分かった…よ。



101109.





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