「やだっ!酷い怪我じゃない!」
お弁当を食べて灯が手当てをするため梵と場所を交代。ほたるは早々に自分の世界へ飛び立ったらしくさっきから雲を見ながら屋上をふらふらと歩いている。
小さな傷の治療はすぐに済み僕は鬼眼の隣に座ってフェンスにもたれて足を伸ばした。ニーハイを脱いで包帯を解くと灯はぎょっとした顔で言った。梵も痛々しそうに顔を歪めた。
「飯食ってからでよかったなぁアキラ。」
「似たようなものでしょう?」
「あ、そういえば梵。昨日の僕との約束守ってくれたみたいだしお礼だけ言うよ。」
「お、おお…。」
「約束って何です?」
灯の手当てを受けながらの会話。鬼眼は珍しくタバコを吸ってない。まぁ吸ったら僕がうるさく注意するんだけどね。
「逆恨みしたバカ共の後片付けだよ。」
「何の話〜?灯ちゃんも聞きたいわ。」
「この怪我を負わせてくれたヤツらのこと。」
「ああ、貴女に告白して手荒く玉砕された方々のことですね。」
「何それ!最低ね!」
「まー時人もアキラの言うように手荒ーくフってたからなぁ。」
「うるさいな。」
「でも女の子に手をあげるなんて最低よ!!」
「だってさ。」
にこりと灯のセリフに便乗してアキラを見ると普段はあげませんよと返された。減らず口が。
「まぁ片付けつっても叩き起こして出て行かせただけなんだがな。」
「歩けないようにすればよかった。」
「おいっ!俺の負担がデカくなるじゃねぇか!」
「僕の知ったことじゃないね!」
ぎゃあきゃあとうるさく話ながらも手当てを受けて酷く安心していたんだろう、警戒心などを一切取り払った僕は気づかずミスを犯してた。
「ねぇねぇ。」
「どうした、ほたる?」
灯と梵の間に割って入ってきたほたるは一点を凝視しながら問いかけてきた。
「なんで狂の指握ってんの?」
始めは何も考えずにほたるの視線を追って鬼眼の手、正しくは床についていた左手を見た。そして咄嗟に手を放した。僕は無意識に鬼眼の指を握っていた。
「ちちちちちがっ!!!」
「ねぇなんで?」
「だだだから違うんだ!!」
「何がだぁ?」
「時人ちゃんも狂狙いなのぉ!?」
「違う!違うったら!」
「さっきから違うしか言ってませんよ?」
不思議がるほたる、ニタニタする梵に嫉妬する灯、それに何故か怖い笑顔のアキラ。4人の視線に耐えられない。が言い訳が思いつかない。だって完全に無意識だったんだ。どう説明すればいいんだよ!!
「クックックッ。」
「狂?」
笑い出した鬼眼にほたるが声をかけたが返さずニタリと笑って僕を見てきた。
「その癖直ってねぇのか。」
「う、うるさいったら!今の今までなかったよ!」
「癖だぁ?何で時人の癖を狂が知ってんだぁ?」
「そうよ、なんか昔から知ってるみたいな口振りだし怪しーい。」
「クックッ。」
くそう、鬼眼は言う気がサラサラないように笑って僕を見てる。鬼眼をよく知る4人は案の定僕に視線を送って返事を待っているようだ。別に秘密ってワケじゃないし話してもいい…かな?
「…昔、一緒に住んでただけだ。」
「まさかお前らそういう…?」
「叔父の家でだよバーカ!小さい頃からお互い叔父の家に住んでたんだ。…鬼眼は中学入ってすぐくらいから出てったけど。」
「ああ、理事長の!」
「納得〜。」
「でも何で時人が?狂は理事長が親代わりなの知ってるけど叔父の家に住んでたって?」
「母親が生まれてすぐに亡くなって引き取られただけ。」
「そうだったの時人ちゃん…。」
「だから、その、鬼眼はなんか…兄貴、みたい…で。たまに遊んだりしてた、から。」
何言ってんだろ僕は。ちらりと鬼眼を見ると少し驚いた顔をしてフンと鼻を鳴らして顔を逸らされた。
4人を見ると納得したようで、それでも生暖かい目線を送る梵にお弁当箱を投げつけてやった。
納得したというか灯はニコニコしてるしほたるは興味がそれだけのか包帯を弄りはじめるしアキラは…さっきと変わらずの笑顔だ。
「そ、それより手当て終わったの!?」
「ええ、今日はこんなものでしょ。また明日も治療してあげるわ。小さいのはすぐに治るけどこれは時間がかかるからちょっとずつね。」
言葉通りかすり傷は癒えてるし他の傷も幾分よくなってる。足もズキズキした痛みが和らいでる。本当に灯の治癒力はすごいみたいだ。灯はほたるから包帯を取り上げると新しいガーゼを当てて包帯を巻き直していった。
「狂が治せば早いんじゃないの?」
ほたるがポロリと漏らした言葉に梵が賛同した。それが一番早いと。
「それは嫌だ。」
「なんで?」
「鬼眼が嫌がるからね。小さい頃から嫌いなんだよ。」
「え?」
「だから僕も鬼眼の力に頼るのが嫌になってね。…これも癖ってヤツ?ま、そんなんだから灯には悪いけどまた頼むね。」
「そんなの気にしなくていいのよ!」
「さて、もうすぐ休み時間も終わりだし解散だよ。悪いけどここからは仕事だから。早く撤退してよね。」
「手厳しいねぇ。」
包帯を巻き直してもらった足をニーハイに通してローファーを履くと立ち上がってみんなを急かした。文句を言いながら立つ梵を睨みながら投げつけたお弁当を受け取った。
「お弁当箱くらい洗って返すから。」
「ああ、ありがとうございます。」
どこか上の空なアキラに疑問を浮かべながらぞろぞろと歩いて校舎に入った。最後に入ってきた鬼眼はすれ違い様にくしゃりと頭を撫でて行った。
さっきの出来事だとか、未だに癖が抜けないほど鬼眼に安心しきってしまうことを思い出して少し恥ずかしくなりながら扉を施錠した。
鬼眼を恨んだ時期もあったけれどそんなのをすっ飛ばして幼い頃の感情を思い出した自分は少し成長できたんじゃないかと一人思った。
101102.
兄妹な狂と時人は完全な妄想と願望です。