三國無双 甘寧×凌統




かたんと音を立てて開けられた格子の先に見えた風景に凌統は驚きで目を見張った。
山の緑と夕焼けの朱、それに遠くに見える海が美しい風景は丸い格子に縁取られまるで一枚の絵のように鮮やかかつ壮大に凌統の瞳に映った。

「な、すげぇだろ?」
「あぁ…すごい、綺麗だ…」

得意げに口角を上げて笑う甘寧に凌統は半ば独り言のように返した。その顔はあまりの凄さに圧倒され、けれどもその美しさに感嘆しているようでもあり甘寧は満足そうに笑った。
二人が現在いる建物は呉の中心地からは外れた少し山の上にあった。辺りにこれといった街もなければ民家もないそこは自然だけに囲まれたひどく穏やかな場所だ。
そんな山中にぽつりとあるこの建物は大分前に建てられたのだろう、所々傷んでいる箇所も見受けられる。しかしそれなりに掃除はされ数日程度ならば生活に困らない程度には調度品などが整えられている。

「なぁ、あんたこんな場所いつ見つけたんだい?」

凌統は自分をここに連れて来た張本人である甘寧へと視線を向けて問うた。甘寧よりも長くこの呉で暮らしている凌統が知らないこの場所を何故甘寧が知っているのかが疑問でならない。連れて来られる前は誰かから借りたのだろうと思っていた凌統だったがそういう雰囲気ではない。ということは誰かから借りたわけではない。ならばこの男が自らここを見つけたのだろうと考えつくのは至極当然だった。
不思議そうに己を見つめてくる視線に甘寧はあぁ、と頷くと懐かしそうに目を細めた。

「呉に降って直ぐくらいだ。殿に頼まれた使いの帰りにここを見つけた」

その時はここ、廃屋に近かったんだぜ?
当時を思い出してかおかしそうに笑う甘寧に凌統はへぇ、と頷いた。彼が見つけたと言うことはこの場所をここまで綺麗にしたのも彼なのだろう。見かけによらず器用な所がある甘寧らしいと凌統は小さく笑った。

「何笑ってんだよ」
「んー?何でもないよ」

凌統が笑っていることを目敏く見つけた甘寧は自分が笑われたとでも思ったのだろう、少し眉を寄せて視線を向けてきた。あながちその考えは間違っていなかったのだが素直にそうだと言えば甘寧が機嫌を損ねることなど分かりきったことであったので凌統は適当に笑ってごまかした。
しかしそれが気に入らないのだろう甘寧は眉間に皺を寄せてぶすりとした顔のまま格子の側を離れどかりと椅子に腰を下ろした。椅子の前にある卓にはいつの間に用意したのだろうかそれなりの数の酒が並んでいた。そのほとんどはここに来る途中に二人で買い揃えたものだったが幾つか凌統には見覚えないものも混ざっていた。大方、甘寧が持参してきたのだろうと予想をつけた凌統はふて腐れたように酒を煽る甘寧の隣に腰を落ち着けた。

「何拗ねてんのさ」
「別に拗ねてなんかねぇよ」
「だったらこの眉間の皺、何とかしなよ」

そんな顔で言われても説得力ないっつーの。
ぐっと皺の寄った眉間を指の腹で押した凌統はくすくすと声を上げて笑った。小さな子供でもないのにあれだけのことに拗ねてしまう甘寧がおかしくて仕方ないとでも言うようだ。

「元の原因はお前なんだがな…」
「俺は別に何でもないって言ったはずなんだけどね。あんたが気にしすぎなだけじゃないのかい?」

からかいを多分に含んだ笑みで凌統は卓の上から選んだ酒を口に含んだ。決していいものではないが少し強いそれは凌統より甘寧が好みそうな類のものだ。あまり強い方ではない凌統にはきついものではあったが喉はそれを嚥下した。途端、焼けるような感覚が喉を襲う。つん、した独特の香りと味が駆け抜けていった。幾度かその酒を飲んでいればその刺激にも慣れほどよく酔いが回ってくる。ごくりと動く喉に痛いほどの視線が突き刺さっていることに溶けていく思考の片隅で凌統は気づいていた。それがただこちらを見ているのではない、ある感情が乗っていることにも勿論気づいていた。しかし凌統は気づいていない振りをした。いつもなら「何見てんだっつーの」と文句の一つでも漏れる所なのだが今日は気分がよかったのかそれとも只単にそういう気分だったのか。凌統はたった今視線に気づいたように何?、と甘寧を見つめて首を傾げた。少し下から角度をつけて見上げた甘寧の表情は先ほどと打って変わって情欲に染まっていた。







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