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「ふあぁ…」


短い春休みも明け、葉桜になりつつある並木道を欠伸をしながら歩く。途中親しい顔を見かければ声をかけ、別れてまた一人になると姉の編んでくれたマフラーで口許をすっぽり覆い。日差しは暖かくともまだ肌寒い日が続いている。休み中は新入生の入学式やオリエンテーションがあり、手伝いをする三年以外の在校生は登校を禁止されていたため部活もなかった。仕方なく自宅の庭で竹刀を振って自主練を続けていたが、そういえば彼はどうしているだろうか。ふと思い顔を上げると、バンッと手のひらで叩かれた衝撃が背中を襲い。よろけたがなんとか踏み止まる。


「よお、白龍。おはよ!」

「…朝から元気そうで何よりです、アリババ先輩。」


背をさすりながら恨めしそうに見やると「わりぃ。」と謝罪の言葉が返ってきたが、反面顔は嬉しそうにしていて。仕方ないな、と白龍も苦笑を浮かべため息を漏らした。


「春休み前もバタバタしてたから、なんか久しぶりだな。」

「そうですね。ちょうど先輩の顔を見たいと思っていたところです。」

「そ、そうか?嬉しいな。」


照れたように頭を掻きながらへらへらと笑う相手を眺めて、どうしてこの人はこんなにも鈍感なのだろうと不思議にすら思う。同時に自分は単なる「部活の後輩」としか見られていないのかと考えると気が沈み。先輩のしかも同性を恋愛対象として見ることになるとは高校進学した一年前は露とも思わなかったが、今では彼の一挙一動に目が離せなくなっていて。そんな自分を受け入れ、つい最近ではアピールにも余念がない。しかし色恋沙汰に鈍いらしいこの三年生はなかなかに手強く、日々悶々としていた。


「あれ?」

「どうかされました?」


はたと隣で歩みを止めたアリババにつられて白龍も足を止め首を傾げる。どうしたものかと返事を待っていると、何やら頭のほうを見られているようで。寝癖は今朝直したはずだ、と自分に言い聞かせるも若干冷や汗をかく。


「あの、何か付いていますか?」

「や、そういうんじゃねぇんだけどさ。白龍お前…背ェ伸びたのか?」

「は?」


予想の斜め上いった疑問を投げられ思わず間抜けな声が出てしまった。確かに冬期休暇からこの春休みにかけて徐々に伸びはしたが。


「ええ、この間姉に測ってもらったら169cmになっていました。」


悪気は微塵もなくにこやかに言う白龍にアリババは苦い表情になった。


「1cm超された…」


ぽつりと震える声が聞こえたところで白龍は合点がいった。なるほど、ほんの少し前までは3cmという微妙な身長差があり悔しくもこちらが見上げていたのだが、こうして並んで立ってみると目線がさほど変わらない。それどころか、1cm自分のほうが勝っていると分かった瞬間たとえ小さな差だとしても見下ろしているのだという優越感が生まれて。滅入っていた気はどこへいったのか、にやりと口許が歪む。


「本当ですね。先輩のほうが小さい。」

「なっ!? 何にやにやしてんだよ!」

「いえ、先輩が小さくて可愛いもので。」

「うるせーよ、小さい強調すんな!そのうち伸びるんだよ!」

「その年ではもうさすがに成長期は来ませんよ、ずっとこの身長です。俺は伸びたので可能性はありますが。」

「〜〜! 生意気言いやがって…!」


頬を膨らませてムスッとする相手に思わずふき出せば、ぺちっと頭を叩かれ。
そういえば義姉である紅玉が理想の身長差というものをうっとりとして語っていて、それは15cmくらいだったはずだ。可能性はあると言ったものの、自分がそこまで成長することは無理という話だ。逆転したこの1cmで何ができるだろう。とりあえず今は、無意識な上目遣いにちっぽけな優越感を充たしてみようか。


1cm


(早く俺の気持ちに気づけ!)




20121223.


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