鬼道との会話の最中、ふと視線を巡らせると氷色の髪が目に留まった。
こちらを見つめる橙色の瞳が気になって、鬼道との会話を切り上げて、ゆっくりとそちらに近づく。
座っている佐久間が不思議そうに見上げてきた。

「さっきからなんなんだよ」
「え?」
「そんなに鬼道くんが気になんのか?」

佐久間の瞳が、どうしてとでも言いたげに見開かれた。
真っすぐに俺を見つめてくる佐久間の瞳に耐えられなくて、逃げるように視線を逸らした。
心臓は早鐘を打つのに、気持ちは沈むばかりだ。
どうして、だなんて俺が聞きたい。
外れない佐久間の視線に負け再び溜め息を吐き、厭味たっぷりに言葉を放った。

「そんなに話したいなら行けよ。俺の用件は済んだしよ」
「なんでだ?」
「なんでってお前、熱烈な視線送ってただろうが」
「は…?」

思えば、初めて見た時から惹かれていたのだと思う。
真帝国からFFIの中盤辺りまで一悶着はあったものの、今では和解できていると我ながら思う。
以前までは張り詰めていて刺すようだった雰囲気が、気を許した者にだけ醸し出す柔らかい雰囲気へと目に見えて変わっているからだ。
自分が惹かれている相手があからさまにそんな態度へと変えたのに、それを嬉しがらない筈がない。
けれど、それをあまり心から嬉しいと素直に思えないのもまた事実であった。
自分に対する佐久間の態度は確かに変わった。
しかし、それは自分だけに限定された甘い雰囲気の態度では無いのだ。
何十日もイナズマジャパンの面々と過ごせば、最初は頑なだった佐久間の態度もやはり少しは緩和される。
そんな仲間達に対する態度と自分への態度は寸分も違わないのだ。
イコール、佐久間にとって自分はただの仲間の一人。
考えすぎじゃないかと思われるかもしれないが、そう思わざるを得ない理由がしっかりと存在しているのだ。
佐久間の瞳には、ただ一人だけしか映し出されていないのだから。

「何なんだ、それは」
「言葉通りだろうが。ほんと、毎日毎日飽きねえもんだ」

眉を潜める佐久間は心底訳がわからないといった顔をしていた。
俺からすれば佐久間のその反応のほうが訳がわからない。
佐久間は鬼道を慕っている。
それが恋慕なのかは定かではないのだが、いつも鬼道の後をついて回っているのだからそう思われるのも無理はない。
現に他の連中まで「佐久間は本当に鬼道が好きだな」なんて微笑ましそうに見守る始末だ。
それをいつも慌てて佐久間は否定する。
どう見たって鬼道を好いているようにしか見えない。
俺が入り込める隙など、端から無いのだ。
だからもう半ば自分の不毛な恋を諦めている。
そもそも男に恋すること自体が不毛なのだからと自分に強く言い聞かせて。

「ったく、好きなら好きって言やいいだろ。巻き込まれる俺の身にもなれよ」
「巻き込んだ覚えは無いんだが、」
「無自覚かよ…質悪ぃな」

頭をかきながら呆れて溜め息をまた一つ。
こんな風に振る舞っていても、胸は締め付けられるばかりだ。
それだけ自分は佐久間を好きなのだと否応なしに思い知らされる。
いっそ全部投げ出してしまいたいのに。

「不動」
「なんだよ」
「お前、勘違いしてないか?」
「はあ?なにをだよ」

佐久間の言葉の意味が掴めずに、勢いに任せて佐久間を振り返った。
橙色の瞳に俺が映っている。
なんと情けない顔をしているんだろうか。

「俺は鬼道さんを見てなんかいないぞ」
「…はいはい、言い訳はいいか、」
「不動」

俺の言葉を待たずに、佐久間はやけに真剣な声で俺を呼んだ。
心なしか震えているようにも聞こえるそれに、思わず言葉を噤んだ。

「俺は、鬼道さんじゃなくて」

一つ一つを確かめるように佐久間はゆっくりと言葉を並べる。
佐久間が息継ぎをする度に、俺の鼓動も速くなっていく。
真正面から佐久間の表情を見、言葉を聞き、その瞬間を二度と忘れぬようにとでもいうかのように、今度は視線を外すことなく佐久間を見つめた。
しんとしたこの空間を壊すように、一拍の後、佐久間は小さな声で確かにそう言った。

「不動を、見ているんだ」

それを聞くが早いか、待ってましたといわんばかりに俺は佐久間を抱きしめた。
呆気にとられピクリとも動かなかった佐久間は、俺の耳元でクスリと笑う。
好きだ、と告げれば、うん、と幸せそうな声が響く。
佐久間の細い腕は、小さく俺の背を抱きしめ返していた。






(溢れ出る想いを届けるので)




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