「なんか…普通…?」

現在、約束通り夕刻に迎えに来た源田に連れられ、円堂と風丸、豪炎寺は吉原へと続く大門の前に立っていた。
その大門を見るなり発せられた円堂の言葉に思わず源田は苦笑した。

「幕府から大門は質素に、という命が出てるからな」
「そうなんですか?」

風丸が源田を見上げれば、源田はこくりと頷いた。
そうして風丸はもと来た道を振り返った。
見渡す限り田しか広がっておらず、此処に来るまでに沢山の人が歩いていた。
吉原に行くには、先程まで自分達が歩いてきた道以外に方法が無いと聞いた。
このどこから見ても田舎としか例えようのない場所に、派手な大門が立っていても違和感しか覚えないだろう。
そう考えれば、大門を質素にという命にも頷ける。

「風丸ー!行くぞー!」

その声に風丸が我に返り振り返れば、大門の真下で己に手を振る円堂の姿。
風丸は慌てて三人の元へと駆け出した。
三人に追いついた風丸は、円堂に思い切り背中を叩かれた。

「次は置いてくぞ!」
「…すまん」

そんな二人のやり取りを見ていた源田は愉快そうに笑いながら、じゃあ行くか、と先頭に立って門をくぐった。
その後について同じ様に門をくぐった三人は、再びその足を止めて息を呑んだ。

「う、わ…!」

白粉の香りが辺りに充満し、清掻の音色が滾々と流れている。
仲之町は、あらゆる色彩で溢れていた。
先程の大門の質素さとは裏腹に、表すならば豪華絢爛のそれであった。

「すっ…げえ…」

開いた口が塞がらないといった体の三人を振り返り、源田はこっちだ、と江戸町一丁目の方を指し示して歩を進めた。
その後に続きながら、三人は忙しなく首を廻らせる。
そうして、ふと目に止まったものを見て豪炎寺は口を開いた。

「源田さん、これは?」
「ん?」

穏やかに豪炎寺を顧みた源田は、その示す物を認めてああ、と声を上げた。

「張見世だ。ほら、格子の中に遊女がいるだろう?それを見て気に入った遊女を定めるんだ。そして、この張見世の上が妓楼だ」
「成る程…」

それを聞いた円堂と風丸もそれぞれ張見世に目を懲らした。
張見世の前には沢山の男が群がっていた。
中には金が無くてただ物見遊山するだけの者もいるそうだ。
格子の中には何人もの遊女がいて、丁度正面の上座に座る一際綺麗な遊女がその見世で最も級が高い事を示していた。
見渡す限りのそのあまりの絢爛さに、目が眩む様だった。

「着いたぞ」

源田のその声に我に返り、三人は目の前に立つ見世を仰いだ。
周りの見世にも劣らない華やかさを誇っているその見世。
此処に、いるというのだ。
江戸でも名高い、源田の想い人の燈凛太夫その人が。
唾を飲み込みながら源田へ視線を戻せば、暖簾を潜り見世の中へと入っていく後ろ姿があった。
お互いに顔を見合わせて、その後を若干挙動不審になっている三人が追う。
中に入れば、外にも負けないきらびやかさだった。
思わずため息を零し、先に入った源田を探すべく首を廻らせると直ぐに見つかった。
そちらに近づいていけば、源田の目の前に一人の遊女が立っていた。

「―…姐さん、すごく源田様を気にしておりんしたよ。でも…案の定でありんすね」

桃色の髪を揺らしながらその遊女は源田の足を見ながら苦笑した。
遊女の言葉を聞いた源田は困ったように笑い返して頬を掻いた。

「それはまずいな。謝らないと」
「そうしてくれなんし。さ、源田様。参りんしょう」

そう言って笑みを深くした遊女は、上へと続く階段を示す。
それに源田は頷きながら、それじゃあ、と遊女の頭に軽く手を乗せた。

「久しぶりに煕蝶の三味線を聞かせて貰おうかな」

煕蝶と呼ばれた遊女は僅かに開かれた瞳で源田を見上げた。
そうして暫くしてから勿論だと頷いた煕蝶は、源田と共に上へと上がって行った。
その一連を眺めていた三人は、源田と煕蝶が二人で先に行ってしまったので、どうすればよいのかわからずにただ立ち尽くしていた。
するとそこに、緑髪の幼い遊女―…珊瑚が姿を現した。
三人の前に立った珊瑚は、小さく首を傾げ、抱えていた膳を持ち直しながら口を開いた。

「お三方は源田様のお連れ様でありんしょう?座敷に案内致しんす!」

ふわりと微笑む珊瑚に、三人は顔を見合わせた後、大きく頷いた。



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