しゃんしゃん、と音が鳴る。
此処は吉原、名高い遊女達の集まる遊郭。
辺りに溢れる清掻の音色は耳を傾けるだけでも酩酊できそうな程に、艶やかに花街を彩る。
むせ返る甘い薫りは今にも頭が逆上せそうだ。
そんな廓の一角に見世を構える「鬼道屋」は、他の妓楼に比べればまだ年の浅い妓楼ではあるものの、老舗の姑楼に負けず劣らずの華やかさであった。


「―花魁」

街中に溢れる音色に耳を傾け、花街を見下ろしていた夕陽色の視線は、ゆっくりと後方の襖の方へと注がれた。
座敷に小さく手をつき一礼した遊女は、まだあどけなさの残る顔を前へ向けた。
目の前で手をつき己を見つめる遊女の目を見据えつつ、静かに言葉はその凛として心地好い声音に乗せて紡がれた。

「…なんでありんしょう?」
「楼上様が花魁を、と」

うっすらと細められた瞳は再び街の方へと向けられ、引き結ばれていた薄桃色の唇がほんの少し緩められる。
視線は変えぬまま、口だけを動かした。

「直ぐに、と伝えなんし」
「あい」

襖が閉じられたのを音で確認し、花魁と呼ばれたその女は緩慢な動作で立ち上がる。
しゃらり、しゃらりと幾本も備え付けられた簪を鳴らしながら。

「…」

夜の江戸を照らす白銀の月を見上げ、着崩れた着物を手早く直すと、花魁はくるりと踵を返し襖を開けた。




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