最初は怖そうな人だなって思った。
本当に僕と同い年なんだろうかって思うくらい大きくて。
こんな人と上手くやっていけるのかな、なんて不安になってホリーの後ろに隠れた覚えがある。
その時周りのみんなはどんな顔をしていたのかなんて全く覚えてない。
ただ、ホリーと目の前の名前も知らない男の子の表情だけは、脳裏に焼き付いていた。
「そんなことがあったのか」
白く輝く砂浜に立つパラソルの下に僕は座っていた。
波打ち際の辺りでホリーが監督とニースと追いかけっこしてる。
あ、監督がすごい勢いで手を振ってる。
何か叫んでるけどよく聞こえない…そんなに楽しいのかな?良かったね二人とも!
「んー、あった…って、え!?ジーンもしかして覚えてないの!?」
ずっとホリー達を眺めてたからジーンの返事を思わず流しそうになって、慌てて隣を振り向いた。
寝転がっているジーンは目を閉じて口だけを動かした。
「いや、ニースとリーフとホリーがいたのは覚えてる」
「…覚えてないんだね…」
ああ、そういえばジーンはそんな人だった。
大雑把で、マイペースで、どうでもいいと一度でも思ったら完全に思考から消し去る。
すごいなあ、いつもそう思う。
羨ましいよね、なんだか憧れるな、ってホリーに話したら『リーフはそのままで充分』と言われた。
「まあ、いいんじゃないか。お前が気にしていた事をされた当の本人が忘れてるんだ」
「うー、ん…それもそうだね」
ああ、やっぱり忘れてるんだなあ。
そう思いながら僕は再びホリー達に視線を向けた。
『リーフ?』
名前を呼ばれて顔を上げると、どうしたんだという顔で僕を見るホリーがいた。
『あ…えっ、と…あ、はは。ちょっとビックリしちゃっ…』
た、と続けた時には僕の体は動かなくなっていた。
眉を潜めることもせず、目を見開くこともせず。
ジーンは、本当に冷たい目をしていた。
それだけどうでもよかったんだろう。
でも、その目の奥が揺れるのを、僕は見たんだ。
それを見た僕は、どうしようもない罪悪感に苛まれた。
僕の態度は彼を傷つけてしまったんだ。
『、あ…あ、の。その、』
ごめんなさい、簡単な言葉の筈なのに。
声が出なくて、ホリーの服を握る手が強さを増して、頭が真っ白になって。
それからどうしたんだっけ。
謝った?ううん、だったらこのことを引きずったりしない。
それじゃあ一体僕は、
「…フ、リーフ」
ハッと我に返ると、僕の顔を覗き込みながらホリー達を指差すジーンの顔がすぐ近くにあった。
「泳がないか、って言ってるぞ」
「え?」
ホリー達を見ると確かに大きな声で僕達を呼んでいた。
「あ、ほんとだ…」
ね、という声は途切れてしまい、代わりにくしゃりと髪を撫でる音がした。
目を向けると無表情で頭を撫でるジーンがいて。
ああ、そうだ。
あれからジーンは、確かにこんな風に無表情で僕の頭を撫でたんだ。
「…よし、行くか」
僕の頭から一旦放して目の前に差し出してきた左手は、すごく大きくて。
「…うん!」
その手は、とても温かかった。
∴ あの日からきっと、ずっと
(君の優しさは変わらない)