「…すまないヒロト」
「もう…散々聞いたよ」
困ったように笑いながら手を左右に振るヒロト。
それでも申し訳ない気持ちは簡単には拭えないわけで。
黙り込んで視線を泳がせている俺を見てヒロトは更に困った顔で笑った。
ほんとに、ヒロトはそう呟くと一呼吸置いてから口を開いた。
「緑川は無茶ばっかり」
「う、」
返す言葉がないとは正にこの事。
我ながら必死だなという自覚はあったし、でもそれを止めようとは微塵も思わなかった。
これが俺のやり方だったから。
でも、きっと、
「心配、したんだから。たくさん、いっぱい」
ああ、ほら。
いつも俺を見てくれていた。
たくさん励ましてくれた。
エイリアの一件で一線を自ら引いてしまった俺を連れ出してくれた。
何もかも、ヒロトがいたから。
「―っ、」
視界が歪む。
大粒の涙が頬を伝う。
悔しい、些細なことですぐに力尽きてしまう自分が。
悔しい、君にそんな顔をさせてしまう自分が。
悔しい、何も返してあげられない自分が。
歯痒くて歯痒くて。
「ごめん、ごめんなさい。ごめ、」
そして、結局謝ることしかできないんだ。
「…俺さ、」
ヒロトの呟きに顔を上げるとヒロトはどこか遠い目をしていた。
「ヒ、」
「俺、ずっとすごいなって思ってた。誰よりも、人一倍努力してる緑川が。まあちょっと無茶しすぎだけど」
いや、ちょっとじゃないや。かなりだね。
そう言いながらヒロトは俺の方を向いて続けた。
「でもそれが緑川なんだよね。見てるこっちは心配なんだけど、あ、俺も頑張んなきゃって思うんだ」
ニコリと笑うヒロト。
その優しさに俺は何度助けられてきたんだろう。
「嬉しかったんだ。緑川と同じフィールドを走れることが嬉しくてたまらなかったんだ。だから、」
ヒロトが俺の涙を指で掬ったあと、小指を立てて俺の前に突き出してきた。
「待ってるよ。ずっと、待ってるから」
突き出された小指をぽかんと見ていると、ヒロトがむうと頬を膨らませた。
「もう、約束!絶対戻って来るんだよ!」
ね!と言いながら更にずいっと指を突き出してくるヒロトを見て、俺は思わず笑った。
ありがとう、ヒロト。
「…ああ、約束!」
∴ ごめんなさい、ありがとう
(きっとまた、一緒に)