今はもう過去の話だが世界代表選抜の顔合わせの日、個性豊かなメンバーの中に佐久間はいた。
日々連絡を取り合う仲だったとはいえ、その件に関して何も知らされていなかった俺は驚き、そしてどうしようもなく嬉しかった。
また共にプレーが出来るのだと疑いもせずに。
しかし結果は俺だけが残り、佐久間は落ちた。
悔しかっただろうに、佐久間は涙を見せることもなく俺に労いの言葉をかけて微笑んだ。
その姿を見て、共に行けぬ悔しさと必ず勝ち進んでみせるという決意が募り、その気持ちを胸に俺は世界に挑むこととなったのだ。
着実にアジア予選を勝ち抜き、優勝を決めたその日の翌日、俺は確かに目を疑った。
ライオコットへ飛び立つメンバーの中に、佐久間がいたからだ。

「あの時は、夢でも見てるのかと思ったんだ」
「確かに、あの時の鬼道さんは、まるで幽霊でも見たかのように俺を見てましたもんね」
「…俺はそんな目をしていたか?」
「してました」

くすくすと可笑しそうに佐久間が眉を下げて笑う。
そんな佐久間の姿に酷く安堵して思わず息をついた。
変わらない存在があるというのは、どうしてこんなにも安心するのだろうか。
帝国を出て雷門に来た時、俺はどうやっても抜けきれない癖に苦戦した事があった。
それは、そこにいるはずのない人物の影を無意識に探すという癖だ。
その人物は言わずもがな佐久間だったのだが、あまりにも佐久間と過ごした時間が長過ぎていつの間にか癖として染み付いていたのだ。
ちなみにその癖は今に至っても抜けていない。
その癖を持つ自身に改善する意思がないのだから、当然の結果だ。
改善する意思がないのは、それにより自分の中で佐久間という存在がどれだけ大きいのかを知れるし、何よりそれが嬉しかったからだ。
しかし、そう思っているのは自分だけなのかもしれない。

「…佐久間」
「はい?」
「いつも思っていたんだが…お前は、こんな俺の隣にいて楽しいか?」
「…鬼道さんの隣、ですか?」
「…ああ」

真帝国の時、佐久間は俺に言った。
俺と同じ場所で、俺と同じ世界が見たかったと。
佐久間本人の口からそれを聞くまで、俺はその気持ちを知らなかったし、気づいてもやれていなかった。
他人なのだから気持ちが分からないのは当然なのだが、俺はそれが悔しくて悲しかった。
佐久間も同じ思いでいると思っていたからだ。
だから、今ある自分の中の思いもあの時のように違うのではないかと。
俺は佐久間と共にいる時間が好きで、何よりも幸せだ。
家にいる時や仲間と共にいる時とは違う。
佐久間がいるからこそ、佐久間との時間を幸せに感じられるのだ。

「…楽しい、というか」
「…」
「俺、鬼道さんの隣にいることが出来て、すごく幸せなんです」
「、幸せ、か」
「はい」

佐久間が俺を見て柔らかく笑う。
その一瞬は確かで、先程の佐久間の言葉も確かだった。
それを認めた瞬間、俺は肩の力が抜けるのを感じた。
先程までの不安は綺麗に一掃され、その代わりのように嬉しさばかりが満たされていった。
今度は、佐久間も同じ思いを抱いてくれていたその変え難い事実によって。

「佐久間」
「?」
「これからも、俺の隣にいてくれるか?」

そう告げると、佐久間は驚いたように目を見開いて固まった。
え、あ、と口ごもりながら忙しなく視線を泳がし始める。
最終的に僅かに俯いたその場所で動くのを止め、そうして押し黙った。
なんとも言えない沈黙が鼓動を速めていくのを耳の奥で聞いていると、佐久間が小さく身じろいだ。
その直後に聞こえた小さな了承の声に、俺は笑みを零していた。



∴ 幸せだと言えるこの日々を
(いつまでも君の隣で)

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