宿舎の周りをランニングしていた風丸は、建物の陰で動いている影を認めて足を止めた。
その視線の先では、幼児ほどの大きさの影がよたよたと歩いている。
そしてその影の進む先には、遠目から見ても誰であるか特定出来る髪の持ち主。
身につけている青いユニフォームの背番号から、更に確信へと変わる。
その人物に向かってゆっくりと歩みを進め、後ろから声をかけた。

「何してるんだ、佐久間?」
「うわあ!」

叩いた華奢な肩がビクリと跳ね上がったその瞬間、風丸は顔面から腹にかけて大量の水を被っていた。
予期していなかった事態にさしもの風丸も呆然として、自身から滴り落ちる水滴を眺めていた。
微動だにしない風丸を余所に佐久間は、真っ青になりながら手元のタオルを手に取った。
それを使って風丸の頬や腕といった水滴の拭き取れる箇所を拭きながら、何度も何度も謝った。
若干涙目の佐久間を見て沸き上がってきた笑いを止められずに、風丸は腹を抱えた。
全く訳が分からない佐久間はタオルを片手にきょとんとしていた。

「いや、ごめ…っ、佐久間があんまり必死だったから、つい」
「だっ…だって悪いのは俺だろ!?」
「そんなの俺だって悪いさ」

そう言って、佐久間にはかかってないか?と風丸が聞けば、完全に勢いを失った佐久間は小さく頷いた。
それを確認して良かったと呟き、濡れてしまったユニフォームを脱いで絞っていると、視界の端にあの影を見つけて視線を移す。
随分と見慣れてしまった、赤、青、紫のそれらは佐久間の足にしがみついて風丸を見上げていた。

「もしかして、ペンギン達に水浴びさせようとしてたのか?」
「あ、ああ…。今日は少し暑いし、丁度いいかなと思って」
「成る程な。そうか、ごめんな。水浴びの邪魔をして」

渡された佐久間のジャージを羽織りつつ屈んでペンギン達を見れば、そのペンギンは風丸を見つめて一度だけ鳴いた。
そして佐久間の足から離れ、そのまま他の仲間の元へと戻って行った。

「はは、やっぱり可愛いな」
「だろ!?もう、本当に可愛いよな!」

風丸が発した“可愛い”という言葉に佐久間は目を輝かせ、興奮したように声を弾ませた。
そして足元に転がっていたホースを拾い上げると蛇口を捻り、ペンギン達に向けて先端から流れる水を放した。
ペンギン達は気持ちよさそうに上から降ってくる水を浴びている。
その様を、佐久間は楽しそうに見ていた。
サッカーをしている時や、イナズマジャパンのメンバーといる時には見せることのない顔をしている佐久間を見ながら、風丸は笑みを零した。

「…ペンギンも可愛いけどさ」
「ん?」
「一番可愛いのは佐久間だと思う」
「、は!?」

突拍子もないその言葉に、佐久間は再び手元を狂わせた。
そうして持ち主を失ったホースは、今度は持ち主だった佐久間に大量の水を被せた。
先程の風丸のように水を滴らせる佐久間を見て、風丸も驚いていた。
同じように唖然としていた二人は、互いの視線を交差させると、同時に声を上げて笑った。
水滴を乗せた芝生は陽光を反射して煌めき、二人の足元で横たわるホースからは小さな虹が出ていた。




∴ いつもと違う君を見た
(お揃いだ、と君は笑った)

――――――――
50000リクエスト/瑠嘩様へ


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -