佐久間次郎、源田幸次郎。
彼らが真帝国学園に来て、早くも一週間が経った。
洗脳という少々手荒い方法で引き込んだ彼らであったが、未だに抵抗をしているのは佐久間だった。
帝国の鬼道に対する絶対的な信頼感、崇拝感。
それはまるで鬼道有人というその存在が、神とでもいうかのような其れであった。
特に、そんな彼の参謀として支えてきた佐久間の鬼道に対する尊敬の念は例えようがない程で、結果として今の状況に繋がっている。

「だから、お前は捨てられたんだよ」

一体自分は、何度この言葉を彼にぶつけたのだろう。
佐久間の世界の中心は鬼道有人。
それは決して過言ではないし、その事実は変えようもない。
ならば、その中心を崩せばいいのではないか。
その結論に至るのにそう時間はかからなかった。

「…違、う」
「はあ?この期に及んで強気だなあ、佐久間くんは」

自分を睨み上げる橙色の瞳は、此処に来た当初から変わりもせずに強い光を放っていた。
初めて会った時から、佐久間だけは自分の思い通りにならなくて歯痒くて。
それだというのに、同時に彼は自分の興味の対象となった。

「鬼、道…さん」
「…」

佐久間が鬼道とその唇で紡ぐ度、自分の中でどうしようもない苛立ちばかりが膨らんでいくのがわかった。
それが一体何なのか、当初は分からなかったのだが。

「…そんなに鬼道がいいか?」

伏せられていた佐久間の瞼が震えた。
虚ろになっていた目に映っていたのは、佐久間を見下ろす自分の姿。
その瞳が、不動明王という人間を映してくれたなら。

「…何が、言いたいんだ?」

不審げに訝しむ佐久間の前髪を掴み上げ、無理矢理上を向かせれば苦しげな呻き声が響いた。
鬼道になりたいわけじゃない、むしろなりたくもない。
けれどそれを言ってしまったら、自分はどうすれば認めて貰えるのだろう。

「…不動?」

佐久間の瞳は不動を見据えたまま動かない。
それを認識した時、腹の底から何かが競り上がってくる感覚がして思わず身震いをした。
果たしてそれが畏怖なのか何なのかは分からぬまま。

「…」

ふと氷色の前髪を掴み上げる不動の手に、褐色の肌の手が添えられた。
思わず込めていた力を抜くも、佐久間の手は離れない。
ただそれだけだったというのに、どうしようもない思いが込み上げてきた。
今この手を離したら、佐久間はあいつの元へ、鬼道有人の、元へ。
そう思うが早いか、不動は佐久間の手に自分の指を絡め、逃げられないように強く握り締めた。
突然の事態に身動きも取れない佐久間の細い体を引き寄せて、襟元から覗く首筋へ、まるで吸血鬼のように噛み付いた。
握る佐久間の手が力を増して、離せと言わんばかりに爪を立てる。
それすらも気にも止めずに不動は、吸血行為のようなそれを続けた。
そうして不動がそこから顔を離す頃には、佐久間の首筋にはくっきりと鬱血した痕が残っていた。




∴ 絶対的独占欲
(手放すなんて勿体ない)




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