真っ暗な空間、空虚でしかないその場所に二人の男の子が寄り添うようにうずくまっている。
自分はそれをただぼんやりと、彼らの向かい側に立って眺めていた。
小刻みに震える肩は、おそらく泣いているのだろうと思われた。
見覚えのある流れる氷色の髪、見覚えのある褐色の肌、見覚えのある緑と赤のユニフォーム。
ああ、この少年達は。
ついと目を細め、そうして一歩を踏み出した。
革靴の響く音が空間の中でこだまする。
まるで泣き声のようなその音を聞きながら、今だにうずくまる彼らの前で立ち止まった。

「…悲しいか?」

ゆらりと顔が持ち上げられて、ようやく彼らと目が合った。
泣き続けていたためか、二人の瞼は腫れ上がり、その頬には涙の跡がくっきりと刻まれていた。
この空間と同じ空虚を宿すそれぞれの瞳に、自分は映し出されている。

「悲しいか、佐久間次郎」

途端、彼らの肩が大きく揺れた。
嗚咽は段々と大きくなり、それに呼応するように彼らは叫び声を上げた。
鬼道さん、と何度も何度も。

「置いていかないで、」

例えるならば、母とはぐれた迷子の子供。
信頼のよりどころを失ってどうしようもない不安と焦燥に駆られる、そんな心情。
泣き叫ぶ彼らの目の前にしゃがみ込んで、小さく息を飲んだ。
痛い程に彼らの感情が流れ込んでくる。
それもそうだ、この子達は紛れも無い、幼い頃の自分。
鬼道という存在に焦がれ、追いかけ、隣に立つことを望んだあの頃の自分。
その為に何度自分を呪い、苛み、そして傷つけたことか。

「…忘れるなよ。今感じている思いも、これから感じる思いも」

彼らの頭に手を置いてゆっくりと撫でる。
きょとんとして自分を見上げる彼らを見ながら笑みを見せた。
嬉しいのなら笑えばいい、悲しいのなら泣けばいい。
だけど、一度感じたそれらを忘れることだけはしてほしくない。
決して自分は一人ではない。
自分を見てくれる人、側にいてくれる人、間違いを正してくれる人。
自分の周りにはいつもそんな人達がいるのだから。

「大丈夫。ゆっくりでいい」

もう一度彼らに笑いかければ、二人も自分を真っすぐに見つめ、そして初めて笑みをこぼした。
そんな二人に頷くと同時に、そこで自分の意識は途絶えた。




ゆっくりと瞼を上げて、最初に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。
小さく息を吐いて、重い体を起こす。

「…夢、か」

なんとも不思議で懐かしい夢だった。
あれだけで二人の助けになったかどうかなんて知ることは叶わないが、自分の心は妙に晴れやかだった。

「どんな夢だったんだ?」

突然聞こえた声に驚いて隣を見遣ると、赤い瞳が自分を見上げていた。
いつもの朝の光景に酷く安堵を覚えつつ、隣に横たわる愛しい人に微笑みながら、小さく体を傾けた。




∴ そうして僕らは大きくなって
(過去の自分を抱きしめながら)




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