開けた窓から、僅かに涼しさを含んだ風が入り込んできた。
薄い水色のカーテンが、それによって煽られる。
その行方を眺めていた俺は、ふと手の中の雑誌の存在を思い出して我に返った。
開いていた筈のページは、案の定、風にめくられて違うページへと変えられていた。
思わずため息をついて、雑誌を閉じ放り投げる。
しかしそれは思いの外、大きな音を立てて床に落ちた。
まずい、と思ったその刹那、ベッドに座る俺のすぐ横で身動ぎをする気配がした。
そちらに視線をやれば、向けられていた背がゆっくりと、こちらを振り返った。

「…はよ」

起こしてしまった事への謝罪の言葉よりも先に、そんな言葉しか出てこなかった。
それに対して、ぼんやりと、視点を定めぬまま視線を泳がせた佐久間は、小さく頷いた。

「わりぃ。目、覚めただろ」
「…少、し…」

目を擦るも、やはりまだ眠いのだろう。
佐久間の瞳は、今だにとろんとしていた。
ハスキーな声も、今は少し高めの声になっている。
そんな佐久間に申し訳なさを感じ、俺は佐久間を見下ろしながら口を開いた。

「いいぜ、まだ寝てても。眠いんだろ?」

そう聞けば、佐久間は返事をせずに、僅かに体を起こし、俺の方へ更に近づいてきた。
寝起きの、それも寝ぼけている時の佐久間はいつもこうだ。
普段からは想像もつかないくらいに甘えてくる。
俺にとっては、それが嬉しくてたまらないのだが。

「…なんだよ」
「…ねむい…」
「だから寝ていいっつってんだろ」

軽くその頭を叩けば、佐久間は小さな呻き声を上げた。
それでも尚、佐久間は一向に寝ようとしない。
夕陽色の瞳は、今にも溶けていきそうなのに、俺を捉えたまま閉じようとはしないのだ。

「…、一緒に寝て欲しいのかよ?」

すると、図星とでも言わんばかりに佐久間は視線を逸らした。
俺を捉えていた瞳は消え、今、俺の目の前に広がるのは氷色だけだった。
仕方ねえな、と息を吐き、その髪に手を当てる。
そうすれば、佐久間の肩がピクリと浮いた。
しかし、俺は気づかないフリをし、そのまま氷色の髪を梳いたり、撫でたりを繰り返した。
それが擽ったくて耐え切れなくなったのか、佐久間は可笑しそうに身を捩り、こちらを向いて笑った。

「不動」

佐久間の髪に触れたまま視線だけを向ければ、眩しそうに目を細めて笑う佐久間がいた。
なに、と返せば、佐久間は再び可笑しそうに笑う。
それは無邪気な子供の様で、それなのにどこか大人びていて。

「ふどー」

間延びした声で俺の名前を紡ぎ、佐久間は俺に向けて腕を伸ばしてきた。
相当寝ぼけてやがる、と思いつつも、結局それが嬉しいという事に変わりは無くて。
伸ばされた手を握り、佐久間に覆いかぶさるようにして倒れ込めば、温かい体温が伝わってきた。
相変わらず、楽しそうに笑っている佐久間の前髪をかきあげ、現れた額に一つキスを落とす。
好きだ、なんて小さく呟けば、佐久間は酷く幸せそうに微笑んだ。
そして俺は、佐久間からの返事も待たずに瞼を閉じた。
そうすれば、言えなかった返事の代わりとでもいうように、俺の背に回された細い腕が、少しだけ強さを増したのだった。




∴ 愛しい君との過ごし方
(こんなにも愛しくて、幸せで)




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