俺さ、思ったんだ。
どうせ生涯を終えるなら、お前の隣で終えたい、って。
何の穢れもない瞳で宙を見つめながら、一つ一つ確かめるように紡がれたそれは、俄かには信じがたい台詞だった。
コイツは一体何を言い出すんだ、と、俺はシーツの上に散らばった氷色の髪を掬おうとしていた手を止めた。

「そりゃまた、…悪趣味だな」

行き場を失った手が空を裂いて、力無くシーツの上に落ちた。
ぽすり、と乾いた音が響く。
その響いた音の為か、それとも自分の意思か、こちらを向いた佐久間は、橙色の瞳に俺を映した。
佐久間の瞳に映る自分は、どこか怯えているような、そんな表情をしていた。
静寂が流れる室内で、うん、と掠れた小さな声が俺の鼓膜を突き刺した。

「知ってる。そう思っている自分が、よく分かってる」

静かに微笑んだ佐久間は、そう言うと再び宙に視線を移した。
両腕を伸ばせるだけ伸ばし、掌を開いては握り、開いては握りの繰り返し。
そんな佐久間の訳の分からない行為を、俺はただ視線だけで追っていた。

「人の命ってさ、短いだろう?」

佐久間の声が静かに響く。
俺は柄にも無く、その声に聴き入っていた。

「自分が生きている今は、とてつもなく長く感じるけれど、だけど、本当はあっという間の事なんだ、きっと」

そう言い終え、握っていた手をゆっくりと開いたのを最後に、細い腕が下ろされた。
その下ろした右手を胸に置いた佐久間は、そうして一つ、深呼吸をして瞼を閉じた。

「…意味がわかんねえ」

それが結局、何なんだという事も、一番始めの佐久間の言葉の意味も。
俺のその疑問を読んだのか佐久間は、分からなくていい、と呟いた。
そんな佐久間から視線を外し、シーツに放り出されたままの自分の手を見遣り、次にその指の先にある、身動ぎ一つしない氷色の髪を見遣った。
先程自分が行おうとしていた事を、俺はその髪に触れる事で思い出した。
サラリとこぼれ落ちる髪を掬い、撫でるように梳く。
それを繰り返している内に、眠くなったのだろう。
佐久間を見遣ると、規則正しい寝息を立てていた。

「…」

ふと、佐久間の髪を撫でる手の動きを止めた。
代わりに、その無防備な寝顔を覗き込みながら、褐色の肌をした頬を撫でた。
佐久間は僅かに眉を潜めたが、すぐにその表情は柔らかいものになり、俺は思わず安堵の息を吐いた。
そうして、ゆっくりと己の体を傾けた。
傾くスピードを落とすこともせずに、目下で寝息を立てる佐久間の顔へと自分の顔を近づける。

(長くて短い生涯なら、せめてお前の隣で、)

その唇に触れる直前に、ああ、と目を細めて、ゆっくりと閉じた。
佐久間の呼吸を頼りにその唇を塞ぐ。
そうして奪う、その呼吸さえも、全て。
柔らかい感触を、時折混ざってくる呼吸を頭の奥で感じながら、俺はただ、眠り続ける恋人を想った。




∴ 隣で眠る君の酸素が足りなくて
(その愛に溺れて死ぬの)

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