小さい頃、俺は短冊に“お星様になりたい”と書いたことがある。
それを姉さんに見せた時、姉さんは悲しそうな、困ったような笑みを見せた。

『ヒロトは、本当に星が好きね』

その笑顔の意味を分かるはずもなかった幼い俺は、そんな姉さんに無邪気に頷いてみせたのだ。




「あー、アレはビビったな」

庭に面した縁側の側に、大振りの竹を取り付けながら晴矢がそう言った。
笹飾りを作っていた手を止め、顔を上げれば、隣からも同意の声が響いた。

「風介が教えたんだっけ?」
「ああ、多分」

そちらを見れば、俺と同じように笹飾りを作る緑川と風介の姿。
緑川の手元には、既にこのお日さま園全員分が書くための短冊が置いてあった。
その中の一枚を手にとって眺める。
ぼんやりとした頭の中で、今年は何を書こうかと、そればかりを巡らせる。
そうしていると、突然緑川が、うわっという叫び声を上げた。

「風介の笹飾り、クオリティー高!」

緑川の指す方を見れば、成る程、確かに丁寧に細かい作業を心がけたのか、それは見事な笹飾りが多く作られていた。

「お前、変なところで器用だよな…」

笹を取り付け終えたのか晴矢が室内に上がり、風介の手元を覗き込んだ。
風介はというと、涼しい顔で黙々と作業を続けていた。

「短冊、どうすっかなー…」

晴矢が、先程の俺と同じように、緑川の手元に散らばった短冊を手に取りながら言った。

「“背が高くなりますように”」
「なめてんのか」

作業を続けたままそう言った風介に、本当に器用だなと妙に感心してしまった。
ふと目を閉じて、少しだけ記憶を手繰り寄せる。
皆の声が遠くなっていくのを感じながら、その行為に集中する。
“星になりたい”と思ったのは、きっとただ単に星が好きだったからだろう。
その言葉の取り方次第によっては、風介から教えてもらったそれに繋がる。
けれど、それを聞いた俺は、更に星になりたいと思ったのだ。
あの時も、そして今も、脳裏に浮かぶもう一人の“ヒロト”。

(星になったら、誰かが俺を見てくれるかもしれない。)
(星になったら、君と話ができるかもしれない。)
(星に、なったら、)

閉じていた瞼を開けると、依然として三人は大きな声で楽しそうに騒いでいた。
そんな三人を見て、たまらなくなって思わず笑みを零した。
ぎょっとした様に俺を見る三人の目は、ただただ驚きに満ちていた。

「ヒロト、どうかしたのか?」

怖ず怖ずと顔を覗き込んできた緑川の黒い瞳を見つめ返しながら、俺は静かに首を振った。

「ううん、なんでもない、」

ああ、見つけた、俺の願い事。

「短冊、早く書いて飾ろうよ」

俺を見つめる三人の顔は相変わらず困惑に満ちていたけれど、その提案をのんでくれたのか、短冊をそれぞれ手に取った。
自分の分を手にしながら、窓の外を見遣った。
心地好い風が、縁側の笹の葉を、さらりさらりと揺らしていた。




∴ 願いごと、一つ
(君達の願いを、叶えられる存在になれたらいいな)



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