「なあ、」
「あ?」
「あ、いや…その…」

遠慮がちに目を伏せ視線を泳がす佐久間を目の前にして、俺は手の中の空になった缶をごみ箱に投げ入れた。
ガシャンと派手な音を立てて綺麗に収まったその結果に満足して頷きながら、再び佐久間に視線を戻した。
さっさと話を進めれば良いものを、佐久間はぼんやりと先程俺が缶を投げ入れたごみ箱を見つめていた。
思わず嘆息して佐久間の頬に手を伸ばし、そうしてその柔らかい肌を思い切り捻り上げた。

「いっ…、いひゃい!」
「で、なんだよ。さっさと用件を言えよ」

頻りに、懸命に首を縦に振る佐久間を認め俺はその頬から手を離すと、組んだ足の上に肘を置き頬杖をついた。
真っ赤になった頬を摩りながら、佐久間は小さく口を開いた。

「…弁当、」
「は?弁当?」
「だから!その…、弁当…俺、作って…やろう、か?」

目を見開いてふと、俺は横に転がるパンの袋を眺めやった。
最近は朝起きるのが億劫で朝食もろくに摂れず、最初は自分で作っていた弁当も作るのが面倒になって、めっきり購買のパン頼りになってしまった。
朝はいつも、そんな俺を見兼ねた佐久間が起こしてくれるのだが、さすがに食生活まで面倒をかける訳にはいかず、元よりそんな気も無かったので話題にもしていなかった、が。

「…つーかお前、料理できんの?」
「なっ…できるに決まってんだろ!こう見えて家庭科の成績5なんだからな!」

説得力が無い上にこいつは自分を自分でけなしたいのか。
しかも家庭科の成績5だったら料理ができるという答えには繋がらない。
胸中に広がる不安やら何やらを渦巻かせながらも、俺の中の単純に嬉しいという気持ちがそれらに打ち勝ってしまった。

「…そんじゃあ頼むぜ、次郎ちゃん」
「次郎ちゃん言うな」





「…まあ、あれだな。予想通りの茶色さ」
「っ、だったら食べなきゃいいだろ!」

俺の手から弁当箱を取り上げて佐久間は、ふて腐れたようにそっぽを向いた。
翌日、本当に弁当を作ってきてくれた佐久間のお手製料理は何とも言い難い茶色さであった。
真っ黒でないだけ、料理ができるという前言には頷けるのだが。

「…おい、俺の昼飯がねえだろうが」
「どうせ美味しくないから食べなくていい」

どうしたものか、と俺は頭を抱えたくなった。
変な所で強情な佐久間から、どうやって俺の昼飯を奪えばいいんだ。
しかし、そんな丁寧に細かく考えるような忍耐力は生憎持ち合わせていなかった俺は、佐久間を抱きしめるような形で背後から弁当を取り上げた。

「なっおい、不動!馬鹿!」
「腹減ってんだよ!」

佐久間に取り上げられる前に、急いで弁当箱の蓋を開き、近くにあった卵焼きを箸で掴んで口内に放った。
そんな俺の行動を佐久間は大人しくなって見つめていた。
けれど、いつまで経っても何も言わない俺に痺れを切らしたのか、佐久間は俺の肩を掴んで体を揺さぶった。

「なあ不動…ど、どうなんだ…?」
「……悪くねえんじゃねえの、」

ぱあ、と佐久間の顔が目に見えて綻んだ。
そんな佐久間を可愛いなどと思いつつも、俺は口端を吊り上げて続けた。

「ま、まだまだなのには変わりねえけどな」
「…一言余計」

そう言うと落ち込んだ様子で佐久間は、肩を落としてうなだれた。
肩からこぼれ落ちる髪を見つめながら、俺は手を伸ばして佐久間の頭を撫でた。
僅かに肩を浮かせてゆるゆると顔を上げた佐久間は少しだけ微笑んだ。

「んじゃ、これからも頑張れよ」
「…え?」

佐久間から手を離し、俺は箱の中に並んだおかずに箸をつけた。
取ったおかずを口に運びながら、不思議そうに首を傾げる佐久間に視線を投じた。

「お前が上達するまで付き合ってやっからよ。んで、毎日俺に上手い飯をよろしく」

結局、迷惑をかけたくないとは言いつつも佐久間に甘えてしまう自分がいるに変わりなかった。
大概俺も、とんだ我が儘野郎だ。

「…上手くなるのが何十年後になってもいいのか?」

どこか怯えたような色を滲ませた瞳を俺に向けながら、佐久間は怖ず怖ずと俺を見上げた。
そんな佐久間の肩を引き寄せ、その唇に軽いキスを落とす。
その行為だけでも伝わったのだろう、次に見た佐久間は、酷く優しげな表情をしていた。

「当たり前、だろ?」

まあ、何十年も上手くならない奴なんて早々いないだろうけど、それはそれでいい。
早かろうが遅かろうが、俺が佐久間と一緒にいたいという事実だけは変えようがないのだから。
ふと佐久間を見遣れば、ゆっくりと視線が交わった。
そうして幸せそうに微笑んだ佐久間を見て、俺は再びその細い体を引き寄せた。




∴ プロポーズってやつですか?
(幸せにしてね)




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -