※和パロ
いいとこのお嬢様佐久間と一般人な源田




「幸せになる、とは言いますが」
「?」

隣に座り仄かに微笑む彼女の横顔を窺うように視線を投じる。
そうすれば、彼女の夕陽色のその瞳が自分を映し出した。

「私は、幸せになれるでしょうか」

僅かに瞳に映る自分が揺れた。
それが自分が身動いだものからなのか、彼女が揺らしたものなのか、その答えを知る由は無かった。

「親が決めた事です。それでも私は、幸せになれるでしょうか」

きっと彼女は不安で、怖くてたまらないのだろう。
見も知らぬ男の元へ、たった一人で行かねばならぬのだから。
出来るならば奪い去ってしまいたい。
彼女の手を引いて、何処か遠い所へ二人で。
しかし、弱くて臆病な自分は、己に置かれた立場と、故に彼女に触れる事など赦されないのだという事を理解していて、結局何も出来ないままなのだ。
彼女の本心を知っておきながら、なんて自分は卑怯なのだと笑ってやりたくなる。

「きっと、なれますよ。俺が、誰よりも貴女の幸せを願います。だから、」

顔を上げて、彼女の目を捉える。
そうして彼女は微笑んだ。
儚く優しげなその笑みを、されど今にも泣き崩れそうな弱々しい笑みを、ただまっすぐに自分に向けて。

「ありがとうございます、幸次郎さん」

それに言葉を紡ごうと口を開きかけたその時、彼女を呼ぶ声が響いた。
彼女はその声に振り返り、別れの言葉を告げてその場を後にした。
遠ざかる小さな背中を見つめながら、ぎり、と己の唇を噛んだ。
僅かに広がった鉄の味は、せり上がってくる想いを飲むと共に、静かに喉の奥へと消えて行った。




∴ 儚く消えゆく夢の跡
(この虚しさを何処へ追いやれば良いのでしょう)




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