「ボール回せー!」

今日もグラウンドに円堂くんの大きくて元気な声が響き渡る。
グラウンドの外に備え付けられたベンチの上に、手にしていたドリンクやタオルを置きながら、少しの間その笑顔を見つめた。
色んな人を魅了する明るい笑顔。
かく言う私も魅了された一人。
大好きな人の笑顔をこうして毎日見られるなんて、なんて幸せなんだろう、と思う。

「休憩ですよー!」

隣の春奈ちゃんが出した合図と共に動きを止めると、みんなは思い思いにこちらに向かってくる。
それぞれの名前が入ったタオルやドリンクを手渡して、一通り配り終えると、ほうと一息ついてベンチに腰を下ろす。
すると、左手に柔らかな感触がして、驚いてその場所を見下ろした。
一枚だけ、ぽつりと残された綺麗に畳まれたままのタオルと、その横のドリンク。
そのタオルを手に取り、誰の物かを確認して、思わずグラウンドを振り返った。

「キャプテンと豪炎寺先輩、休憩しないんでしょうかね」

同じことを疑問に思っていたのだろう。
顔を向ければ、豪炎寺くんのタオルとドリンクを抱えた春奈ちゃんが、私が見ていた方と同じ方を見ながら首を傾げていた。
春奈ちゃんから視線を逸らし、再び二人の方を見遣って、私は少しだけ笑った。

「もう少し、待ってみよっか」
「、そうですね!」

春奈ちゃんと顔を見合わせた後、待つこと数十分。
ようやく二人が動きを止めて、先に豪炎寺くんがこちらに歩いてきた。
それに気づいた春奈ちゃんが、足早に渡しに行く。
その後ろ姿を眺めながら、ふと気がつけば円堂くんが駆けてきていた。
慌てて隣に置いてあったタオルを持ち上げて立ち上がろうと腰を軽く上げた、その瞬間。

「秋!」

顔を上げたすぐ目の前に、あの笑顔。
彼が紡いだのは、確かに私の名前。
…ああ、幸せ以上の幸せを私は今、噛み締めているんだ。

「…お疲れ様、円堂くん!」

思わず力が抜けて、ベンチに座り直す。
タオルを手渡しながら彼に触れた手が、少しだけ熱を帯びた。




∴ それ以上の幸せはないの
(君の笑顔が私に向けられるなら)




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