俺が不動の好きだと思うところを5つ挙げてみようと思う。
ベッドに寝転びながら雑誌を読み耽る不動の姿を、目の前に取り付けられたテーブルに頬杖をつきながら眺める。
二人きりの狭く閉ざされた空間だなんて、以前の俺ならすぐに息が詰まって堪えられなくなっていただろう。
何の拷問だ、と悪態をつきながら。
しかしいざそんな風に振り返ってみると、我ながらよくもまあ丸くなったものだと思う。

(目、)

吊り上がった少し鋭い不動の目に睨まれれば、まさしく蛇に睨まれた蛙状態になるだろう。
だけど、俺といる時はその双眸に僅かに優しさを孕ませるのだ。
愛しいものを見るように。

(…指)

細すぎず太すぎない、長い指。
余程気に入っているのかよく俺の髪に触れてくる。
まるで、壊れ物を扱うかのように酷く優しく、それでいて丁寧に。

(…性格、…)

素直じゃないところとか、実は努力家なところとか。
今でも不動明王という人間が分からなくなったりもするけれど、それでも不器用に優しいところだけは変わらない。

(顔…、)

どちらかといえば可愛い顔だと思う。
前に一度そう言ったら思い切り頬を抓られた、痛かった。
完璧に格好いい、とは言えないけど髪型と妙にマッチした不動の顔は、好きだ。

「…なあ、不動」
「あ?」

不動が雑誌から目を離して顔を上げた。
腰を浮かせて立ち上がり不動の方へ移動すると、ベッドを背もたれにして座り直した。
ジャージのポケットから携帯を取り出して、録音画面に切り替える。
不思議そうにそれを見ていた不動を見上げて、俺は心の内を隠す事もせずにそのまま言葉にした。

「今、不動の声を録音すれば、いつでも不動の声が聞けるよな」
「…は?」

不動の瞳が呆れた様な色を宿して見開かれた。
不動の好きなところのあと一つ。

(声)

すごく低い訳でも、すごく高い訳でもなく、その中間にある不動の声。
どんな騒がしい所にいたって、探し当てられる自信もある。
昔は聞きたくもなかった声だけど、今ではいつも近くにないと困るもの。

「…お前、ほんっと時々、意味がわかんねえよ」

その言葉に少しだけむっとして、こっちは真剣なんだ、と返そうとした時。
いつの間にか不動の顔が目の前にあって、その指は優しく俺の髪に触れていた。
少しだけくすぐったくて思わず身をよじると、不動は髪に触れる強さをほんの僅かに緩めた。
また垣間見せてくれた不器用な優しさがやっぱり嬉しくて、不動を見遣れば、その双眸の中には幸せそうに笑う自分がいた。

「あ、」

不動が俺の手から携帯を取り上げた。
しかしそれを待受画面に戻すと、すぐに俺に返してくれた。
何なんだ?と首を傾げていると、不動の顔が耳のすぐ近くにまで迫ってきた。
思わず体を強張らせると、軽く頭を叩かれた。

「…んなことしなくても、ずっと隣にいてやるよ」

耳元で聞こえた、不動の声。
振り返れば、愛しそうに目を細める不動がいて。
軽く頷いて、不動の肩に寄り掛かれば、服越しに伝わる体温。
ああ幸せだなあ、なんて思いながら、俺はゆるゆると堕ちてゆく意識に、ただひたすらに身を任せた。




∴ 君の好きなところ
(つまるところ、それは全部)



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