ふと、名前を呼ばれた気がして顔を上げた。
その先にいたのは、きょろきょろと辺りを見回す佐久間だった。
苗字を呼ぶ事もあまりしないあいつが、俺の名前を呼ぶわけがないと自分に言い聞かせて視線を外せば、あきお、と確かに佐久間の方から声がした。
嘘だろ、と再度佐久間に顔を向ければ今度は視線がかちあった。
一瞬だけ動きを止めた後、佐久間はこっちに近づいてきて小さく口を開いた。
しかし、目の前の奴から発せられたその言葉は耳を疑うものだった。

「あきお知らないか」

…はい?
え、なにこいつ遂に頭イカれた?

「…ここにいますけど」

思い切り不審な目を向けてやれば、佐久間はむっとした様に眉を潜めた。

「お前じゃない」

はあ、と落胆の色を見せながら、佐久間は再び忙しなく視線を動かしながらさっさと歩いて行ってしまった。
そして、その後をぺちぺちという足音を響かせながら足早に着いていったのは、赤と青と紫のペンギン。
この異様な光景を見るのは真帝国以来だ。
あの時と確実に違うところといえば、増えに増えたペンギンの数。
いやいや増えすぎだろ、と心の中でツッコミを入れながら踵を返すと、足元に妙な違和感を感じた。
恐る恐る下を見遣れば、もぞりとうごめく赤い物体。

「…」

思わずそれを抱き上げれば、鋭い瞳と目が合った。
目と目の間には尖った嘴。
言わずもがな、1号の赤ペンギン。
無言のままそいつから視線が外せないでいると、慌てて駆けてくる音がした。

「あきお!」

ついさっき会話した奴の声が耳に届いて、しかもまた俺の名前を呼んだ。
何なんだ、と苛立ちを覚えて文句を言おうと佐久間を振り向いた瞬間。

「探したんだぞ」

こちらに向かって腕を伸ばしたかと思えば、俺が抱え上げていたペンギンを持ち上げた。
嫌な予感がして立ち尽くしていると、佐久間が顔を覗き込んできた。

「どうしたんだよ不動」

俺は思わずこめかみを押さえながら佐久間を見た。

「もしかしてもしかしなくても、あきおっつーのは…そいつか?」




「それで、こいつは“ゆうと”で、こいつが“こうじろう”…」

今ベンチに座る俺の隣には楽しそうにペンギンを紹介していく佐久間がいた。
そんな佐久間を眺めながら、俺は柄にもなく感嘆していた。
とてつもなく覚えやすい名前を教えてもらえるのはまあ有り難いんだが、こいつらの違いがわからん。
それなのに佐久間は次々にペンギンの名前を一匹一匹言っていく。
佐久間、お前、すげえよ。
そう思いつつ視線を滑らせれば、盛大にコケた青ペンギンが目に留まった。

「…なあ、あいつは、」

俺が見ている方に顔を向けた佐久間は、ああ、と苦笑した。
そうして、俺が付けた訳じゃないんだけど、と言いながら再びコケたペンギンを抱き上げて俺の前に突き出した。

「じろうだ」
「お前かよ」

聞けば、佐久間を除く帝国メンバー全員一致でこのドジペンギンはじろうになったらしい。
わからなくもないと思いつつ、ふと佐久間の膝の上のあきおを見つめた。

「…何でこいつが俺なんだよ」
「ツンデレだから?」
「おい」

お前の中の俺って一体何なんだよ。
ため息をつきながら、足元に擦り寄ってきたじろうを抱き上げて頬をつく。
されるがままのじろうを見つめながら、変なとこで無防備なとことかそっくりじゃねえかと心の中で呟いた。

「まあ…でも一番はやっぱり優しいから、だな」

思わずじろうを落としそうになって、慌てて持ち直し佐久間を振り返った。
何言ってんだと叫びそうになって、やめた。
佐久間があまりにも穏やかな表情をしていた為に。

「…バッカじゃねえの、」
「あはは」

そうか?なんて惚ける佐久間の肩を寄せる為に、思わず背に腕を回した。
あと数ミリで触れるといった距離にまで近づいた、途端。

「ぃいってぇええ!!!」
「!?不動!?」

勢いよく佐久間から離れて掌を見れば、くっきりとついた噛み跡から微量ながらも血が滲んでいた。
そうしてそんな事をした犯人を睨みつければ、素知らぬ顔で佐久間の膝の上で踏ん反り返っていた。
ふざけんじゃねえと痛みに顔を歪めながら悶絶していると、褐色の手が俺の手に重ねられた。
顔を上げれば、心配そうに眉を下げる佐久間の顔。

「だっ、大丈夫か?」
「…お、う」

今にも緩みそうな頬を押さえながら返事をする。
そんな視界の端に映ったのは、佐久間の背後から迫り来る鋭い、嘴。




∴ ペンギンガード
(そう簡単には破れません)



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