「鬼道さん」

しんとしたグラウンドに響いた、声。
滑らせた視線の先に映ったのは幼少から共に過ごした仲間。
にこりと微笑んだ佐久間は嬉しそうに駆けてくる。

「鬼道さん」

その腕の中には、何かが大切そうに抱えられていた。

「それ、は…」

きょとんとした様子で佐久間が立ち止まった。
それから、ああ、と気づいたように己の腕の中に視線を落とし、俺の目の前に差し出してきた。

「貴方の、ですよ」

視界いっぱいに広がった赤。
目の前を覆うマントは、俺が使っていた頃のままの状態だった。

「、これ…は、どうし、て」
「どうして?」

意味がわからないといった風情の佐久間は小さく首を傾げた。

「鬼道さんがいつ戻ってきてもいいように、大切に、大切にとっておいたんですよ!」

にこにことマントを差し出す佐久間。

「お、れは…今は、もう…」

佐久間の表情に蔭がさした。
その表情は何かを訴えているようで、

「っ俺は、お前達を見捨てた訳じゃない!俺はただ…!」

ああ、こんなものただの言い訳にしか聞こえない。
ふらりと体を動かして俺のほうに近づいてきた佐久間に、思わず後ずさる。

「…怒ってなんかいませんよ」

顔を上げた佐久間は嗤っていた。

「でも鬼道さんにはやっぱり、赤が似合いますよ?」
「ほら、真っ赤な、真あっ赤な。緋」
「ね、鬼道さん」
「鬼道、さん」

にこりと微笑む佐久間の左目は、酷く痛く冷たかった。




∴ 純真故の狂気
(緋は俺の右目と同じ色)


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