「風丸ー」

扉をノックする音と聞き慣れた声が響いたのを耳に留めた風丸は、のそりと起き上がった。
それとほぼ同じ時に、自室の扉が開く。
そちらに顔を向ければ、濡れた髪を赤く染めた頬に張り付かせながら、タオルを片手に扉の取っ手を握る佐久間の姿があった。

「風呂入ってきたのか?」
「ん、鬼道さん達と」

そうか、と返せば佐久間は頷きながら扉を閉め、部屋に入ってくると床に腰を下ろし胡座をかいた。
まだ拭い切れていない雫が佐久間の髪から滴り落ちる。
それを見た風丸は無意識に佐久間の手からタオルを取り、その髪に覆い被せた。

「ちゃんと拭かないと風邪引くぞ?」
「んー…」

されるがままに大人しく髪を拭かれる佐久間から、時折ふわりと甘い匂いが漂ってくる。
女子みたいだなあ、等とぼんやり考えながら風丸はふと頬を緩ませた。

「…何?」

雰囲気で伝わったのだろう、佐久間がふと顔を上げた。

「いや、嬉しいなあと思って」
「は?」

胡乱な顔で風丸を見上げてくる佐久間に、風丸は笑みを深くして終わり、と呟くとまだ少しだけ湿る頭に手を乗せた。
そうして手を離すと、そのまま風丸はベッドへ倒れ込んだ。
ぽふ、と間の抜ける音が響いて体が沈む。
続いて立ち上がった佐久間が、風丸の隣に腰を下ろした。

「なあ、何が嬉しいんだ?」

風丸の顔を覗き込みながら佐久間が首を傾げる。
その様を見つめながら風丸は、さあ?と意味ありげに笑ってみせた。
そんな風丸の反応にムッとした表情を見せた佐久間は、ふいと顔を背けた。
くすくすと込み上げる笑いを止めることもせずに、風丸は寝転んだまま両腕をいっぱいに広げた。

「佐久間」

名前を呼ばれ渋々振り返った佐久間は、風丸のとっていた行動に一瞬動きを止めた後、僅かに喉を鳴らした。

「…」

水気を含み湿った氷髪が風丸の頬へ、はらりとかかると共に、佐久間は目の前で広げられた腕の中へゆっくりと身を沈ませた。
お互いの熱を共有すれば、甘いシャンプーの香りが、ゆったりと二人の間に満ちていった。




∴ ほんの少しの優越感
(俺だけに見せる君の姿に)




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -