※年齢操作(10年後妄想)
鬼道財閥の次期社長鬼道と秘書兼ボディーガード佐久間










ふわり、揺れる。
開けた窓から入り込んできた風が、艶やかに流れる髪を撫でる。
ゆったりとしたその動きを目で追った鬼道は思わず、忙しなく動かしていたペンの動きを止めた。
すると、すぐに目の前で揺れていた氷色の動きが大きくなり、鬼道の視界には自分を映す橙色の瞳だけが捉えられた。

「少し、休憩しますか?」

急に止まった動きに、鬼道が疲れたのかと思ったのだろう。
心配そうに自分の顔を覗き込んできた佐久間に、いや大丈夫だ、と鬼道は返した。
その答えに佐久間は少しだけ首を傾げながら、困ったように笑った。

「無理はなさらないで下さいね」
「ああ。しかし、お前が手伝ってくれているから、当分無理をする事なんてないだろうな」

鬼道はペンを持ち直しながらうっすらと微笑を浮かべた。
その様子を見た佐久間も、つられて思わず微笑んだ。
コーヒー淹れてきますね、と立ち上がった佐久間の背を見送りながら、鬼道はかけていた眼鏡を少しだけ上にずらすと、活字の並ぶ味気ない書類に再び視線を落とした。




佐久間の淹れるコーヒーは程よい苦味を口の中に広げ、少しずつ心身を癒してくれるかのようで鬼道はとてもそれを気に入っていた。
そのコーヒーを片手にちら、と視線を隣に移す。
そこでは、佐久間が書類とパソコンを交互に見遣りながら、鬼道の仕事を手伝っていた。
昔から頭のよく回る佐久間は、帝国学園時代、鬼道の参謀役としてその能力を発揮させていた。
実際にその能力は目覚ましく、鬼道は様々な面で幾度となく佐久間に救われていた。
だからこそ鬼道は、元々ボディーガードとして鬼道財閥に配属されてきた佐久間を秘書に、と我が儘を重々承知で頼んだのだ。
それを佐久間は、お役に立てるならば是非に、と快く了承してくれた。
あの時の優しく穏やかに細められた瞳を、鬼道は今でも脳裏に焼き付けている。

「…」

ふと、佐久間が髪を掻き上げた。
さらりと流れるその髪は、鬼道の中で記憶されていた長さよりも短くなっていた。
鎖骨の下辺りまで伸びていたあの髪は、今では肩に付くか付かないか程度の長さに切り揃えられていた。
それに関して一度だけ聞いたことのある理由は、自分のしている仕事ではあの長さは邪魔だから、というものであった。
鬼道はその髪を新鮮だと思うと同時に、少しだけ残念に思った。
自分が見続けていた流れるようなあの髪を見る事は、もう無いのか、と。

「…お前は、」

佐久間がゆっくりと顔を上げるのを捉えつつ、鬼道は椅子の向きを変えた。
日に焼けた褐色の肌に手を伸ばし、静かに撫でれば、佐久間の肩が少しだけ浮いてぴくりと体を強張らせた。
それに気づきながらも、鬼道は頬を撫でていた自分の手を氷色の髪に移動させ、一束だけ掬った。

「、鬼道、さん?」
「…お前はもう、この髪は、伸ばさないのか?」

鬼道は毛先を確かめるかのように指を滑らせ、氷の髪を手櫛で梳いた。
その度に、わかるかわからないか程度の動きで佐久間が反応を示す。

「今の、ところは…」

どこか掠れた声が響く。
少しだけ伏せられた赤の双眸が、僅かに揺れた。
そうか、と口を開いた鬼道は、名残惜しそうにそして愛しそうに、掬った髪を引き寄せ口づけた。
その様を、ほんの少しだけ瞳に淋しさにも似たものを滲ませながら、佐久間は見つめていた。

「…でも、」

鬼道が顔を上げる。
交差した視線を外す事もせずに、佐久間は柔らかく微笑んだ。

「やっぱり、伸ばします」

首元が涼しすぎて落ち着かないですし、と眉を下げつつ付け足しながら。
鬼道の大きく開かれていた瞳が、ゆっくりと細められる。
可笑しそうに崩されたその表情に、佐久間は安堵の息を細く吐いた。
今にも震え出しそうな体を、心を落ち着かせながら、鬼道は再び口を開く。

「…是非、そうしてくれ」

変わらないものなど無いのだ、と人は言う。
それは事実であるだろうけれど、それでも変わらないものはあると思う。
昔から変わらない佐久間の笑顔が、今ここにあるのだから。
ふと、瞼を閉じた。
再び伸ばした手の先に、あの頃の自分達を描きながら。




∴ あの頃のように、また
(同じ時を、隣り合って過ごせるように)



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