思春期というものは、とにかく面倒なものだとつくづく思う。
十四なんていう微妙な年齢は特に。
付き合い出したりだとか、あっちの方の知識がついたりだとか、そういうのはこの歳になれば大半の者が経験する。
そして、それに伴って俺の告白される回数も増えたり。
正直なところ、俺はそういうものにはあまり興味が無かった。
いや、“付き合う”ことには興味はあった、というかむしろある。
ただ、告白してくる奴らを“好き”になることができなかったのだ。
なぜなら俺には、あいつ以外の人を見ようという意識が全くと言っていいほど、なかったのだから。



「おかえりー」

すっかり日課になってしまった放課後の告白タイムが漸く終わり、よくもまあ飽きないものだと半分感心しながらゆっくりと教室のドアを開けた。
そこには、夕日に照らされながらひらひらと手を振る幼なじみの柔らかい笑顔があった。

「ずっと待ってたのか?」

ふわり、と若葉色のくせっ毛の髪が夕日に反射してキラキラと輝きながら左右に揺れた。

「少し前からだよ。僕も呼び出されちゃって」
「なるほどな」

先に終わって帰ってきてみれば俺の鞄がまだ残っていたので、どうせなら一緒に帰ろうと思った、といったところだろう。
そして、ここにいるということはやはり。

「断ったんだ?」
「うん。ホリーもでしょ?」

無言で頷けば、リーフはいつも通りだね、と少し面白そうに笑った。
そんな風に話をしながら帰り支度を整え、少しだけ重たい鞄を肩にかけて俺はリーフに帰る事を示した。
それにリーフも慣れたもので、自分の鞄を両手で持つと立ち上がった。

「付き合うとか正直よくわかんないよな」

教室のドアをくぐり前を向いたまま告げれば、ドアを閉める音と共にそうだねという同意の声が響いた。

「でも、最初はみんなそうなんじゃないかな」

隣に立って歩きだし、俺は自分の目下にある若葉色を見つめた。
小さい頃は同じくらいだった背も、気がつけば自分はリーフを追い越してしまっていた。
けれど、そうやって日を追う毎に成長していくのは体だけでは無かったらしい。
少なくとも俺は、同じ言葉でも子供時代と今では全く違う意味の感情を、着実に膨張させていた。

「…リーフは、好きな奴、いないのか?」

少しだけ前を歩いていたリーフが振り返った。
その澄んだ碧眼に俺の姿が捉えられる。
俺が少しだけ息を飲むと、目の前のリーフは困ったようにはにかんだ。

「正直、僕はそこから、いまいちよくわからないんだ」

その言葉に、ああ、と俺は目を細めた。
力が抜けたように頭がふわふわとしている。
可能性なんて無いのだ、と言われた気がした。
目を細めたまま、リーフを見つめていれば、でもね、という声が発せられた。
少しだけ反応した体が続きを待つ。
そうしてリーフは、ゆっくりと口を開いた。

「でも、ホリーはなんだか、違う気がする」
「…え?」

次こそ頭が真っ白になった。
リーフの言葉の意味を理解しようとして、けれどそうすれば、己の思考は自分の勝手がいい方へと持っていってしまう。
胸の内で、なにかが膨れ上がった、そんな気がした。
引き攣った頬を和らげようと、今だにふわふわとしている頭を躍らせながら、俺は笑みを作った。

「…恋って、難しいな」

相変わらず俺の一歩先を進んでいたリーフは少しだけ目を見開くと、直ぐにその目を細めて、そうだね、と笑った。




∴ 思春期な僕ら
(もう少しこのままでも、)




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