元気な声が響いている。
お気に入りの白い日傘を差して、備え付けられたベンチに座りながら、目の前で駆ける男の子達の姿を追う。
あの頃の彼らを連想させるその姿に、ほんの少しだけ胸が詰まった。
ゴールの方に目を遣れば、以前よりも遥かにその威力を増してきている必殺技を何度も繰り出し、練習に参加しているこのチームのキャプテン。
彼を眺めながらぼんやりとしていると、視界の中の彼がボールを止める動きを止めて、私の方に大きく手を振った。

「ナツミ、ナツミ!」

見てた?と嬉しそうに駆けてくるロココは、私の前に立つと首を傾げて笑った。

「ええ、勿論。凄かったわ」

私よりも遥かに上にある目を見上げれば、ロココは屈んで目線を合わせてきた。
その行為はあまりにも自然で。
容姿だけでなく、こんな風に見せるさりげない優しさも彼に似ている、と懐かしく思った。

「本当?…マモルよりも、凄かった?」

丁度思い返していた彼の名前を出され、私は思わず日傘を取り落としそうになった。
慌てて目の前のロココを見遣れば、私を映すその目は真剣そのものだった。
握りしめた傘の柄を握り直しながら、私はその目を見つめ返した。

「…円堂くんには円堂くんなりの凄さがあるし、貴方には貴方なりの凄さがあるもの。私には、どちらが凄いかなんて決められないわ」

けれど、貴方は本当に凄かったわ。
思わず苦笑しながらそう言えば、ロココは少しだけ悲しそうに俯いた。
途端にちくりと痛む胸。
思わず心臓の辺りを服の上からゆっくりと撫であげて、ふうと息を吐いた。
そうして彼の名前を紡ごうとした、その時。

「…ダメだよ」
「え?」

再び私を見たロココ。
その目は微かに揺れつつも、確かな決意に染まっていた。
あまり見せないその表情に私は思わず息を飲んだ。

「マモルよりも強くならなきゃ、ナツミに好きになってもらえない」

練習してくる、と言い残してグラウンドに戻るロココの背中を見つめながら、私は見開いていた目をゆっくりと細めた。

「…馬鹿ね、」

彼の声がグラウンドに響く。
向かってきたボールを受け止めてはもう一本と投げ返して。
先程から変わらない光景が一つだけある。
それは、練習が始まってから一度もゴールが割られていない光景。
やろうと思っても、そう簡単に出来ることでは決してない。
シュートを決めようと思っているものの、中々割れないそのゴールを見つめながら荒い呼吸を繰り返すみんな。
けれど、彼はそれ以上に荒い息を何度も吐き出していた。
そうして、私はふと目を閉じた。

ねえ、ロココ。
貴方は、強くならなければ私が好きになってくれないと、そう言ったわね。
でも、私が見ているそのゴールの前に立っているのは、彼ではなくて貴方なのよ。
目を閉じて作り出された真っ暗な世界の中で、それでも鮮明に浮かんでくる。
日焼けた顔に太陽のような満面の笑みをのせた貴方が。
ああ、もう私は、十分あなたに恋をしているわ。




∴ 私の一番は貴方なの
(瞼を開けば、そこに)




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