ふと顔を上げたその先に、艶やかな氷色が揺れた。
歩く速さを幾分か速め、その氷色に吸い寄せられるように手を伸ばし、男にしては細すぎる体を包むように抱きしめた。

「今日も可愛いな次郎」
「、だから…嬉しくないって言ってるだろ」

ゆっくりと振り返った橙眼と視線を交差させ、口端を吊り上げる。
眉を顰め不快さをその中性的な顔全体に広げる目の前の、俺のお気に入りである佐久間次郎の頬を撫でた。
擽ったそうに身を捩りながら次郎は俺の手を掴み、やめろ、と呟くと俺の腕からするりと抜け出した。

「…嫌か?」

首を傾げながらそう聞けば、次郎は困った様に眉を下げた。
そんな顔をされても、可愛いとしか思えないのだが。

「嫌とかじゃ、なくて…」

口ごもりながら次郎は頭を小さく掻いた。
それを視界に映しながら、俺は再び次郎を自分の腕の中に閉じ込めた。
肩より少し下まで伸びる氷色の髪と身に纏われたジャージの間から覗く健康的に焼けた褐色の肌に顔を埋める。
ビクリと体を震わせて身じろぎをした次郎は、小さな悲鳴を上げた。
理由は至って簡単。
俺がその首筋に噛み付いた、ただそれだけ。

「ちょ、ビヨン!」

次郎が俺の名前を呼ぶとほぼ同時に、俺は首筋から離れた。
肩で息をしながら次郎は噛まれた部分を手で押さえ、軽く俺を睨んだ。
唇を舌で舐め上げニヤリと微笑み返せば、次郎は小さくため息をついた。

「やめろよ、そういうの」
「?どうしてだ?」
「、どうして、って…」

信じられないとでも言うかのようにその橙眼を見開いて次郎は俺の姿を映した。
そこに写る俺の顔は、上手く笑ってはいるがよく見れば猟奇的な感情が見え隠れしていた。
それに次郎が気づいているのかは別として。

「見ず知らずの奴にやってみろ…捕まる所じゃないだろ」

呆れたように頭を押さえる次郎を見ながら、俺は成る程と一人で納得していた。
そうして思い切り次郎の顎を掴み、上を向かせた。
いきなりの事で対処しきれなかった次郎は端正な顔を苦しそうに歪めていた。

「心配するな次郎。別に見境がない訳じゃない」

次郎の整った唇を撫でながら、俺は再び口端を吊り上げる。
誰にでも噛み付くなんてそんな馬鹿な真似はしない。
俺の噛み付くという行為はマーキングのようなもの。
だからといって気に入った物全てにするという訳でもない。
心底手に入れたい物だけにしなくちゃ意味がない。
最終的には、自分の物にする為に。

「次郎、可愛い」

ぴくりと反応した細い体。
再び次郎に睨まれる前に、俺はその唇を塞ぐ事にした。





∴ 猟奇的人間の愛し方
(例えそれが異様に映るのだとしても)




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