君は、例えるなら太陽なんだろうな。
気怠そうにアイスを口へ運びながら、隣に座る風介はそう言った。
俺は読んでいたバインダーから目を離し、組んでいた足を入れ替えた。
眼前にはプロミネンスとダイヤモンドダストの合同練習という景色が広がっている。
「そんな偉大なもんか?」
依然としてアイスを食べている風介を振り返れば、風介は小さく首を振った。
「偉大かどうかは知らん。ただ…」
言葉を遮って風介は黙り込んだ。
そしてその変わりの様に、茂人がやって来た。
「おー茂人、どうした?」
「…邪魔だった?」
小さく首を傾げる茂人に俺は、いいやと首を振る。
それを見た茂人は、じゃあ、と口を開いた。
「あそこのフォーメーションなんだけど…」
茂人はグラウンドを指差し、俺達にフォーメーションの事などで意見を述べていく。
それを聞いて頷き、時には意見を言いながらふと、風介を見遣った。
食べ終えたアイスの棒を持ちながら、少し背筋を伸ばしグラウンドを眺める風介。
その姿にある物が頭を過ぎった。
「―よし、それで頼む」
意見交換を終え、茂人を見れば、大きく頷いてグラウンドへと駆けて行った。
それを見送りながら、俺は口を開いた。
「…お前は、月っぽいよな」
俺を振り返る風介の翡翠色の目を見返す。
月、と小さく声に出して風介は、そうか、と呟いた。
いつも凛として、遠い所から俺達を見ている様な。
そしてそれは時折、優しさを滲ませる。
綺麗で、どこか神秘的な。
「君が太陽で私が月か。何を取っても真逆な私達にはピッタリだな」
さも可笑しそうに笑う風介。
その動きに合わせて揺れる銀の髪、俺はそれに手を伸ばした。
突然の事に固まる風介に、俺はほんの少しだけ近づいた。
「確かに、俺とお前は真逆だな」
炎と氷、熱さと冷たさ、北と南、赤と青、そして太陽と月。
対照的に位置するそれらは、自分達を連想させるものばかり。
けれど、それが馴れ合うことは決してないのだ。
どんなに近い所にいても、それに手が届く訳でもない。
太陽と月なんて、尚更だ。
「俺は、太陽なんかじゃない」
風介の髪から手を移動させて頬に触れる。
ひんやりとした体温が掌を通して伝わってくる。
ほら、こうやってお前に触れられて、体温だって感じられる。
だから、俺は太陽じゃない。
お前に触れられないのなら、俺は太陽なんかじゃなくていい。
「…晴矢、」
「な、」
ガッという鈍い音を立てて、俺の顔は上へと跳ね上がった。
おまけに、座っていたベンチから勢いよく転げ落ちる。
ヒリヒリと痛む顎を押さえながら、俺は風介を見上げた。
そこには仁王立ちで俺を見下ろす風介の姿。
「…誰もそんな難しい話をして等いないだろう。君が何と言おうと、君は太陽だ」
それはどこか強引な響きを持っていた。
呆然と固まっていれば、ずいっと風介の顔が近づいた。
「君の周りはいつも暖かい、不思議と人が集まって。…安心するんだ、君といると」
ふわり、と風介が纏う雰囲気が柔らかくなった。
「届かない筈ないだろう。私は君の側にいるし、君だって私の側にいるのだから」
目をしばたたかせて、俺は風介を見つめた。
俺を真っすぐ見返す風介の瞳は、強く輝いていた。
思わずこぼれた笑みを止める事もせずに、俺は目を細めた。
「―勿論」
そうしてまた、再び目の前で微笑む愛しい「月」へと、手を伸ばしたのだった。
∴ 正反対の君だから、
(惹かれあっているのだろう)