明日世界が終わるとしたら。
そんなことを珍しく円堂が話題にしてきた。
最初は笑い流そうと思ってたのに、あまりにも真剣な表情をしていたから、こっちまで真剣に聞いてしまった。
「そんな事になったら風丸はどうする?」
「どうする、って…」
何をするどうこう以前に世界が終わるという想像が上手くできない。
そんなこと起こらずにゆっくりと過ぎていきそうな気がするからだ。
だから正直、何も考えつかない。
それでも答えを待つ円堂を見ると、答えないといけない気にさせられるのだった。
「正直、わからないな。やりたいことをするかもしれない。でも、もしかしたら何もしないかもしれない、」
そういうのは、その時にならないとよくわからないんじゃないだろうか。
夏になって、湿気で纏わり付いてくる風を背中で受け止めながら、結局こんな事しか言えないのだと実感した。
「だよなあ…」
リフティングをしながら円堂は真っ青に晴れ渡る空を見上げた。
鉄塔の先に広がる空には飛行機雲が一本の線を引いていた。
握りしめていたペットボトルを座っていたベンチの上に置くと、俺は円堂へと視線を戻した。
「でも、円堂はサッカー、やってそうだよな」
円堂はサッカーボールを高く蹴り上げた後、落ちてきたボールを受け止めながら俺を振り返った。
それを見ながら、俺は言葉を続けた。
「いつもと変わらずにサッカーをみんなと、やってる気がする」
それを聞いた円堂は数回目をしばたたかせると、ニッと俺に笑いかけた。
「そうだな!」
それしか浮かばねえし!そう言いながら円堂はタイヤの方へ駆けて行った。
「あ、」
俺が円堂を追いかけようと一歩踏み出した瞬間、円堂が再び俺を振り返った。
「どうした?」
思わず立ち止まると、円堂はボールを持ったまま口を開いた。
「風丸はさ、わかんないって言ったけど」
円堂はゆっくり俺の元に歩み寄ってくると、一歩手前で立ち止まった。
俺と同じくらいの位置にある力強い目は、しっかりと俺を映していた。
「円、」
「俺と、一緒にいるよな!」
「…うん?」
何を言われたのか上手く掴めないまま俺は立ち尽くしていた。
そんな俺を不思議そうに覗き込んでくる目の前の幼なじみは更に続けた。
「風丸も俺と同じようにサッカー、してそうだよなって!」
それを聞いてようやく頭の中が整理された。
それと同時に心も何だか晴れたような気がした。
「…そうだな、それは、想像がつくな」
俺がそう言うと円堂が笑った。
この晴れ渡った空のように眩しい笑顔で。
それに負けないように、俺もできる限りの笑顔を返した。
∴ 世界が明日終わるのだとしても
(最後まで君の隣にいるのだろう)